Summary
SWOT分析(SWOT Analysis):市場・競争の診断で「状況整理→戦略案出し」まで一気通貫にする定番フレーム。
ひとことで言うと、「強み・弱み×機会・脅威で、打ち手候補を4象限に落とす」こと。
いつ使うか:新規施策・新商品・既存事業テコ入れの前に、論点を漏れなく整理して“勝ち筋の仮説”を作るとき。
実際に自分でSWOT分析をしようとすると、「S:強み」は裏返すと「W:弱み」になり、「O:機会」は裏返すと「T:脅威」というトレードオフになり、うまくできているのか不安になります。私もそのような経験は何度もあります。そういった「もやもや」の解決のヒントになればうれしいです。
また、企業分析だけでなく、パーソナルブランドの分析としてキャリアプラン再構築の棚卸として使ってみるのもSWOT分析の練習にもなると思います。
教科書にも必ず出てくる用語なゆえに、「SWOT分析は時代遅れ」と言われたりしますが、以下でお話話する”正しい使い方”を知れば、SWOT分析の奥深さが理解できると思います。いわゆる「温故知新」や「守破離」という思いで読んでいただきたいと思います。
秀逸ポイント
SWOTの秀逸さは、情報を“分類して終わり”にせず、内部(Strength/Weakness)と外部(Opportunity/Threat)を掛け合わせて戦略オプション(SO/WO/ST/WT)を生成できる点です。さらに、SWOTのオリジナルに近い運用は「各項目に根拠を添え、対話で収束させ、実行計画へ渡す」設計になっています。単なる棚卸しではなく、意思決定の材料に変わります。 サイエンスダイレクト+1
提唱者・発表時期
起源はいくつかの説があります。近年の整理では、SRI(Stanford Research Institute)のLong Range Planning Serviceが1965年に提唱した SOFT(Satisfactory / Opportunity / Fault / Threat) が源流で、後にStrength/Weaknessに読み替わりSWOTへ連なる、とされています(当時は参加型・根拠付け・対話を重視)。 サイエンスダイレクト
一方で「1960年代にAlbert Humphreyが起源」とされることもありますが、決定的な“唯一の創始者”は定まらないという整理もあります。 NCBI
また、TOWS(戦略生成を強く意識した派生)はWeihrichが1982年に整理し、クロスSWOTの4象限(SO・WO・ST・WT)はこの論文を起点としており、現代のクロスSWOT・テンプレートの原型です。 サイエンスダイレクト
詳細説明
SWOTは、企業・事業・施策の「いま」を、内部要因(S/W) と 外部要因(O/T) に分けて可視化し、次に クロスSWOT(TOWS)で戦略案へ変換する手法です。もともとのSOFT/SWOTは「各論点に証拠を添えて評価し、対話で合意形成し、上位の目的・戦略へ渡す」設計でした。 サイエンスダイレクト
SWOTの基本手順(実務での最短ルートの推奨例)
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目的を固定(例:新規獲得を伸ばす/解約を下げる/新市場へ入る)
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S/W/O/Tを“事実ベース”で列挙(各1行=根拠リンク or データ添付)
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重要度×確からしさで上位5つ程度に絞る(優先順位が命、しっかり絞ることが重要)
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SO/WO/ST/WTで「施策の形」に落とす(誰が・何を・いつまでに)
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KPIと検証計画を接続して実行へ
関連フレームとの使い分け(混ぜないのがコツ)
よくある誤用(ここでSWOTが死ぬ)
Hill & Westbrookは、SWOTが「長いリスト化」「一般的で意味が薄い」「優先順位なし」「後工程で使われない」状態になりがちだと指摘しています。 サイエンスダイレクト
典型的なミスは、(a) 内部/外部を混同する、(b) “願望”をStrengthやOpportunityに入れる、(c) 競合比較なしで強みと言い切る、(d) 施策(やりたいこと)をOpportunityに置いてしまう、の4つです。
考えるときのポイント:S/WとO/Tが入れ替わる“あるある”を乗り切る
SWOTで「強みと弱み」「機会と脅威」が逆になったり、結局“当たり前”のリストになったりするのは、ほぼ必然です。原因はシンプルで、分類の軸が曖昧(内外・可制御性・比較対象・時間軸が混ざる)だからです。ここでは、4象限を“使える形”に研ぎ澄ますためのコツを、判定ルールと手順に落とします。
1) まず「内外」を可制御性で切る(内部=自分で変えられる/外部=自分では変えられない)
S/WとO/Tが入れ替わる最大の要因は、「外部要因を内部の問題として書く」「内部の能力を外部の追い風として書く」混同です。迷ったら、次の判定で切ります。
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内部(S/W):自社が設計・投資・運用で改善できる要因(人材、プロセス、データ、ブランド資産、プロダクト、チャネル、価格設計など)
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外部(O/T):自社が直接コントロールできない環境要因(市場成長、規制、技術トレンド、競合の動き、景気、人口動態など)
迷った項目は“原因”まで掘るのがコツです。たとえば「CPAが高い」は現象で、内部に原因(訴求・導線・計測・オファー・配信設計)があるならWへ、「競合が入札を吊り上げた」のように外部が主因ならTへ寄せます。
2) 「比較」がない強みは強みではない(S/Wは“競合比較”で決める)
強みと弱みがひっくり返るのは、絶対評価で書いてしまうからです。S/Wは必ず比較文にします。
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悪い例:強み「ブランドがある」
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良い例:強み「同カテゴリで第一想起率が高い(競合A/Bより指名検索が多い)」
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悪い例:弱み「体制が弱い」
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良い例:弱み「施策の立ち上げリードタイムが長い(意思決定と制作が分断されている)」
“競合が同じだけ持っている”なら、それは強みではなく前提条件です。ここを徹底するだけで、SWOTの粒度が一段上がります。
3) O/Tは「自社にとっての符号」で決める(同じ外部変化でも、機会にも脅威にもなる)
外部変化が“機会か脅威か”で迷うのは当然です。なぜなら、多くの外部変化は両義的だからです。乗り切るコツは、条件文にすることです。
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Opportunityの書き方:「もしXが起きるなら、自社はYで取りに行ける」
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Threatの書き方:「もしXが起きるなら、自社はZが毀損する」
例:法規制強化
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O:「規制対応の知見と運用があるため、参入障壁が上がるほど相対優位が出る」
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T:「未対応領域があり、対応コストとリードタイムで競争力が落ちる」
つまり、O/Tは“現象”ではなく、自社への影響(どこが伸びる/壊れる)で決めます。ここで曖昧さを許容し、同じ事象をOとTの両方に置くのも上級者のやり方です(ただし条件を明記する)。
4) SWOTが形骸化していないか確認する3つのチェック
SWOTが当たり前になるのは、抽象語(品質が高い、顧客志向、DXが遅い)で逃げるからです。次のテストで強制的に具体化します。
テストA:数字・事実テスト
「その一文に、数字・観測事実・根拠リンクを1つ添えられるか?」
添えられないなら“願望”か“印象”の可能性が高いです。
テストB:競合との差別化確認
「競合Aでも同じことが言えるか?」
言えるならSではなく“業界の標準”です。差別化になりません。
テストC:打ち手変換テスト(行動に落ちる?)
「それはSO/WO/ST/WTに変換して“誰が何をする”に落ちるか?」
落ちないなら粒度が粗いか、論点がズレています。
5) 4象限を“うまく埋める”ための実務手順(詰まりにくい順番)
4象限をいきなり埋めようとすると、必ず詰まります。おすすめの順番は次です。
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T(脅威)から書く:まず“負け筋”を先に確定(競合の土俵・規制・価格圧力・代替技術など)
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W(弱み)を書く:その脅威に対して脆い内部要因を列挙(体制・導線・計測・供給能力など)
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S(強み)を書く:同じ脅威環境でも勝ち得る資産・能力を抽出(比較で)
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O(機会)を書く:強みが活きる外部追い風を“条件付きで”定義
この順番の利点は、「脅威×弱み=最優先で潰すべき穴(WT)」 が先に見えることです。戦略はまず“穴を塞ぐ”と急に進みます。
6) 迷いやすい項目の「置き場所」早見表(入れ替わり対策)
| ありがちな項目 | 迷いの原因 | 置き方のコツ |
|---|---|---|
| 市場が伸びている | OにもTにも見える | 「自社が取れる条件」ならO、「競合が取り切る」ならT(条件文で両方OK) |
| ブランドがある | みんな言いがち | “指名検索/第一想起/紹介率”など比較でSにする。根拠がないなら削る |
| 価格が高い | SにもWにも見える | プレミアムが成立している(継続率・粗利)ならS、失注原因ならW |
| 広告費が高い | 内外が混ざる | 競合入札が原因ならT、CVR・訴求・計測の問題ならW(原因まで掘る) |
| 人材不足 | ほぼ全社にある | 自社固有の“ボトルネック工程”に落とす(例:分析→施策化が詰まる) |
具体例/活用案
1) 「SWOT→戦略フレーム」までつなげる(公開資料に学ぶ)
公的な戦略計画では、SWOTを“章立て”として明示し、その後の戦略フレーム(重点領域・施策体系)へ接続する例が多いです。たとえばWHO関連の保健セクター戦略計画では、SWOT分析の章(強み・弱み・機会・脅威の表)を置いた上で、次章で戦略枠組みに落としています。 WHO | Regional Office for Africa
大学の戦略策定でも、Warwickの事例として「SWOTを資源ベース計画に接続し、線形ではなく反復プロセスとして埋め込む」運用が整理されています。 Project Inspire
2) マーケ施策に落とすときの“型”
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SO(強み×機会):強みが刺さる市場/セグメントに集中投資(例:高LTV顧客の課題に特化した価値訴求・導入事例・比較表)
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WO(弱み×機会):弱みを“作らない設計”に変える(例:オンボード改善、サポート整備、品質保証で不安を潰す)
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ST(強み×脅威):脅威の土俵に乗らない(例:価格競争を避け、差別化軸を明確化し訴求一貫性を作る)
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WT(弱み×脅威):撤退条件・縮小条件を先に決める(例:CPAが閾値超えならチャネル撤退、代替獲得手段へ移行)
3) 誤用の例(注意喚起として入れておくと親切)
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「Opportunity」に“やりたい施策”を書く(機会=外部の追い風、施策=内部の選択です)
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「Strength」に“理想像”を書く(根拠のない自己評価は、のちの施策優先度を壊します)
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40項目以上並べて満足する(優先順位がないSWOTは、意思決定に使われにくい) サイエンスダイレクト
4) “4象限を戦略に変える”ための最後のコツ(SO/WO/ST/WTの一文テンプレ)
SWOTをオリジナリティある成果物にする最短ルートは、各象限の上位項目を「戦略の一文」に変換することです。
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SO:「強みSを使って、機会Oを取りに行く。やることは○○」
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WO:「弱みWがあるため機会Oを取り損ねる。先に○○を整備する」
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ST:「脅威Tに対して、強みSで土俵を変える。戦い方は○○」
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WT:「弱みW×脅威Tの組み合わせは致命傷。○○をやらない/撤退条件を決める」
ここまで落ちると、SWOTは“きれいな整理”ではなく、意思決定の武器になります。
5) 看護・医療現場での人材育成事例
- 「A病院の看護管理者がスタッフの能力開発にSWOT分析(看護師版テンプレート)を導入し、強みを活かした役割分担を実現した事例」
※看護領域でのSWOT分析の利用事例が論文でも公開されています(PMCの学術論文)
よくある質問(FAQ)
Q1. SWOT分析のやり方・手順を教えてください
→ 基本4象限の記入から、クロスSWOTで戦略を導く5ステップ
(※「具体例/活用案」をテンプレートとして考えてみてください)
Q2. SWOT分析は時代遅れですか?
→ 静的な性質への批判はあるが、クロスSWOTやAI連携により現役のフレーム
Q3. クロスSWOT分析(TOWS)とは何ですか?
→ 4象限を掛け合わせてSO・WO・ST・WT戦略を生成する手法(Weihrich, 1982)
Q4. 看護や医療現場でSWOT分析はどう活用されますか?
→ 看護管理者の人材育成計画や病院の経営戦略立案で広く使用される
Q5. SWOT分析のトレードオフをどう扱うべきですか?
→ WT戦略(弱み×脅威)は撤退・縮小を意味する。すべての施策を同時に採用できないため、重要度×緊急度でトレードオフの判断が必要
Q6. 人材育成でSWOT分析を使う際のポイントは?
→ 個人の強みを起点にSO戦略を設計し、上司・部下の対話で収束させることが効果的
すぐ使える問い(Killer Question)
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“強み”は競合比較で成立しているか? 自社だけの自己評価になっていないかを問う。競合が同等に持つなら、それは強みではなく前提条件です。
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最大の脅威に対して、勝ち方が“同じ土俵”になっていないか? 価格・機能の殴り合いに入った瞬間に不利なら、土俵を変える戦略(ST)を先に設計すべきです。
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SWOTの上位3項目は、KPIと実行計画に変換できているか? 変換できない項目は粒度が粗いか根拠が弱い。SWOTが“後工程で使われない”状態を防ぎます。 サイエンスダイレクト
参考文献
■ A. 学術論文(査読付き)
Puyt, R. W., Lie, F. B., & Wilderom, C. P. M. (2023). The origins of SWOT analysis. Long Range Planning, 56(3), 102304. https://doi.org/10.1016/j.lrp.2023.102304 → ScienceDirect(OA)
Weihrich, H. (1982). The TOWS matrix—A tool for situational analysis. Long Range Planning, 15(2), 54–66. https://doi.org/10.1016/0024-6301(82)90120-0 → ScienceDirect
Hill, T., & Westbrook, R. (1997). SWOT analysis: It’s time for a product recall. Long Range Planning, 30(1), 46–52. https://doi.org/10.1016/S0024-6301(96)00095-7 → ScienceDirect
Phadermrod, B., Crowder, R. M., & Wills, G. B. (2019). Importance-performance analysis based SWOT analysis. International Journal of Information Management, 44, 194–203. https://doi.org/10.1016/j.ijinfomgt.2016.03.009 → ScienceDirect
Abujaber, A. A., et al. (2023). A strengths, weaknesses, opportunities, and threats (SWOT) analysis of nursing education. Teaching and Learning in Nursing, 19(1), e1–e8. https://doi.org/10.1016/j.teln.2023.09.007 → PMC(OA)
Rony, M. K. K., et al. (2024). SWOT analysis as a strategic compass in healthcare institutions and nursing. Healthcare Analytics, 5, 100334. https://doi.org/10.1016/j.health.2024.100334 → ScienceDirect(OA)
Gürel, E., & Tat, M. (2017). SWOT analysis: A theoretical review. Journal of International Social Research, 10(51), 994–1006. → Academia.edu(PDF)
■ B. 一次資料・アーカイブ
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RapidBI. (2015). History of the SWOT analysis (brief) [Originally SOFT]. https://rapidbi.com/history-of-the-swot-analysis/
■ C. 公的機関・行政資料(.go.jp / 国際機関)
総務省. (2008). 新規事例:事務事業の再編・行政評価(SWOT分析を活用した総合計画実施計画の策定:千葉県松戸市). https://www.soumu.go.jp/iken/080305_5.html
国際協力機構(JICA). (n.d.). クロスSWOT分析例(プロジェクト評価参考資料). https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11882206_04.pdf
農林水産省. (n.d.). 第4章 調査結果の評価・分析:市町村におけるバイオマス活用のSWOT分析. https://www.maff.go.jp/j/biomass/saigai_taio/pdf/2_4_4.pdf
観光DX推進事業(国土交通省観光庁). (2025). データを活用した観光地経営戦略策定(SWOT分析の留意点). https://kanko-dx.go.jp/wp-content/uploads/2025/07/kanko_dx_kenshu_B.pdf
広島県. (n.d.). 参考資料:SWOT分析における内部・外部要因の定義と県への適用例. https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/life/327115_856550_misc.pdf
■ D. ウェブ記事・業界資料(参考)
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RE-経営. (n.d.). 病院看護部が行う「効果的SWOT分析」のコツ. https://re-keiei.com/blog/hospital/1487-swot.html
かみいち総合病院 看護部. (2023). 令和5年度 看護部SWOT分析(人材育成)[PDF]. https://www.toyama-kango-ouen.jp/_wp/wp-content/uploads/2023/04/9a9596fe0a49549377d0bc283755d6ac.pdf


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