この記事で学べること
5Whysの効果(再発防止に留まらない“仕組み化”の効能)
5Whysが難しい理由(問題に入り込むほど近視眼になりやすい)と、そのトレードオフの扱い方
四つの目(鳥・虫・魚・コウモリ) と VE(Value Engineering) を統合して、真因に到達する型
「三本足の5Whys(発生×検知×仕組み)」の考え方と、責任追及に寄せない運用のコツ
AIができる範囲/できない範囲、そして Human-in-the-Loop で完成度を上げる運用
はじめに:5Whysは“手法”というより、Analyticsの「問いのエンジン」
Analyticsの価値は、可視化やレポート作成で終わりません。重要なのは「次にどう変えるか」まで落とすこと。
そのとき効くのが、現象→原因→仕組みへと掘り下げる 5Whys(なぜなぜ分析) です。
ただし現場では、こんな“あるある”が起きます。
5回「なぜ?」を聞いたのに、結論が「気をつける」で終わる
個人の責任追及になり、心理的安全性が壊れる
深掘りするほど視野が狭くなり、部分最適(近視眼)に落ちる
本記事は、この失敗を避けて “効く5Whys”にするための実務型です。
1. 5Whysで得られる効果:再発防止だけではない
5Whysの成果は「真因を突き止める」だけではありません。運用すると、次の価値が出ます。
1) 再発防止(Root Cause)
対症療法ではなく、再発の芽に手を入れられる。
2) 仕組み化(System Fix)
「ミスした人」を責めるのではなく、ミスが起きる構造(手順・チェック・設計)を変える方向へ自然に向かう。
3) 価値創造(Value Creation)
5Whysに VE(価値=機能/コスト) を重ねると、原因を潰すだけでなく「そもそもこの機能は必要か」「別の構造で機能を満たせないか」という 設計レベルの改善に到達しやすくなります。
2. 5Whysが難しい理由:問題に入り込むほど“近視眼”になる
5Whysは一点突破の手法です。深掘りするほど解像度は上がりますが、同時に視野が狭くなる。
このトレードオフを放置すると、次の形で壊れます。
問題定義が曖昧で、掘り下げが迷走する(「品質が悪い」「CVRが落ちた」など)
推測・憶測でストーリーが作られ、連想ゲーム化する
“人のせい”で終わり、組織が学習しない(心理的安全性が死ぬ)
結論はシンプルで、対策は「頑張る」ではありません。
ズームイン(深掘り)とズームアウト(俯瞰)をプロセスに組み込むことです。
3. 近視眼を防ぐ「四つの目」:鳥・虫・魚・コウモリ
5Whysの質を左右するのは、問いの回数ではなく どの視点で観測しているかです。
ここで効くのが「四つの目」です。
虫の目(現場・現物・現実):ログ、手順、導線、微差、エラーの“現象”を高解像度で確認
鳥の目(俯瞰):プロセス全体、部門間の連携、制約、リソース配分を見る
魚の目(潮流):時系列、トレンド、季節性、変化点(リリース・施策・外部要因)を見る
コウモリの目(反射・暗黙知・トレードオフ):
表面に出ない要因(暗黙ルール、心理的安全性、利害、業務の“本当の流れ”)を捉える
「品質 vs スピード」「精度 vs 体験」「統制 vs 自律」など トレードオフの両面を同時に見る
目に見えない構造を“反射音(フィードバック)”で掴むように、現場の反応・逸脱・例外から仕組みを推定する
5Whysは“正しい原因”を当てるゲームではなく、改善可能な因果に落とす作業です。コウモリの目は、その最後の詰め(実装可能性と副作用)で効きます。
4. “効く5Whys”の型
ここからは、Analytics(指標改善)にもそのまま転用できる実務手順です。
ポイントは (1)問題定義、(2)観点の拡張、(3)裏取り、(4)価値で意思決定 です。
Step0:問題意識を作る(ここがないと5Whysは始まらない)
5Whysの最大の障壁は、手法の理解ではなく 問題意識の欠如です。
5W1H+定量で、観測可能な形に落とします。
悪い例:申込が減った
良い例:12/1–12/7のCVRが2.1%→1.4%に低下(LP A、広告流入、スマホで顕著)
この時点で「魚の目(変化点)」を入れると強いです(何が変わったか?)。
Step1:事実を取りに行く(推測を殺す)
推測で始めると、5Whysは連想ゲーム化しやすくなります。
ログ、記録、現場観察、ヒアリングなど 事実ベースに寄せます。
Step2:「三本足の5Whys(発生×検知×仕組み)」で掘る
従来の5Whysを補強する実務的な拡張として、製造・品質領域では 3-Legged 5 Whys(Three-Legged 5 Whys / 3 Legged 5 Why Method など)として紹介されているやり方があります。
要点は、1本の掘り下げにせず、3つの“脚(観点)”を並行して掘ることです。
発生(Specific):なぜそれが起きた?(現象の直接原因〜プロセス原因)
検知(Detection):なぜ早期に検知できなかった?(検出設計、モニタリング、レビュー)
仕組み(Systemic):なぜそれが許容される仕組みだった?(標準、責任分界、運用設計、組織要因)
この枠組みは「犯人探し」を防ぐ“魔法”ではありませんが、個人要因だけに収束しにくい構造を最初から持てるため、結果として blame game を避けやすくなります(ただし「激減」など定量的に断定できる根拠は一般に乏しいため、本記事では言い切りません)。
Step3:1階層目は「4M1E」で漏れを潰す
最初の“なぜ1”が弱いと、後段が全部ズレます。そこで初手だけは 4M1E(Man / Machine / Material / Method / Environment) で候補を広げます。
人(運用・教育・権限)
機械(システム・設備・計測)
材料(入力データ・マスタ・前提条件)
方法(手順・フロー・ルール)
環境(時間帯・負荷・外部要因)
Analyticsで言うなら、「人=運用」「機械=計測/プロダクト」「材料=データ」「方法=施策/プロセス」「環境=季節性/競合/障害」です。
Step4:「だから」テストで逆引き検証する(因果の飛躍を潰す)
掘り下げ後、最下層から上に向かって “だから”でつなぐ。論理の飛躍を排除できます。
根因A だから 中間原因B
中間原因B だから 現象C
ここで成立しない段があれば、そこは「推測」か「証拠不足」です。
Step5:対策はVEで選ぶ(価値=機能/コスト)
根因が見えたら、次は打ち手です。ここでVEを入れると、対策が“強くしすぎる”事故を防げます。
V(価値) = F(機能) / C(コスト)
機能F:守りたい目的(例:与信精度、品質基準、法令対応)
コストC:顧客負担、開発工数、運用負荷、機会損失
「機能を落とさず、コストを下げる」案が、だいたい一番強いです。
Step6:コウモリの目で最終チェック(副作用と“現場の反射”を拾う)
最後に、対策の実装前後で「コウモリの目」を入れます。
この対策は、別の工程に負担を押し付けていないか?(反射=現場の抵抗や例外で露出する)
KPIは良くなるが、顧客体験や運用が壊れないか?(精度 vs 体験などの両面)
例外が出たときの逃げ道はあるか?(フェイルセーフ、段階的ロールアウト)
“守りたい機能”と“払えるコスト”のバランスは妥当か?(VEの最終確認)
5. Analytics(指標改善)に翻訳すると、こうなる
5Whysは製造だけの道具ではありません。むしろ 指標が落ちたときに最も効く。
例:CVR低下を「三本足の5Whys」で扱うなら、こう切ります。
発生:なぜCVRが落ちた?(入力完了率が落ちた/流入の質が変わった/表示速度が遅い等)
検知:なぜ事前に気づけなかった?(監視指標がない/セグメント監視がない/アラートなし)
仕組み:なぜそれが許容された?(リリース手順、計測設計、責任分界、レビュー体制)
この“検知”と“仕組み”を掘ると、5Whysが「再発防止装置」になります。
6. AIはどこまで5Whysができるか(結論:補助輪として強い)
AIは、5Whysの「問いの叩き台」「観点の漏れ潰し」「代替案の発散」が得意です。
一方、「現場事実(ログ・制約・利害・暗黙知)」がないと、もっともらしい推測を作りがちです。だからこそ Human-in-the-Loop が必要になります。
AIに任せると強いこと
垂直(深掘り)と水平(広げ)両方の質問案の生成
4M1Eや四つの目で、観点の漏れをチェック
VE観点で「機能を落とさずコストを下げる代替案」を発散
人が握るべきこと
問題定義(5W1H+定量)
証拠の確定(ログ・観察・ヒアリング)
実行計画(誰が、いつ、どう監視するか)
標準化・横展開(文化にする)
7. 頭の中において、使ってみたいチェックリスト
1. 問題定義シート(5W1H+定量)
When(いつ):
Where(どこで):
What(何が):
Who(誰が影響):
How much(どれくらい):(例:CVR 2.1%→1.4%)
Ideal(あるべき姿):
Change point(直近の変化):(リリース/施策/外部要因)
2. 5Whysシート(証拠・反証つき)
| 段 | Why(なぜ?) | 答え(仮説→事実) | 証拠(ログ/観察/データ) | 反証条件 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | なぜ起きた? | |||
| 2 | なぜ? | |||
| 3 | なぜ? | |||
| 4 | なぜ? | |||
| 5 | なぜ? |
※最後に「だから」テストで逆向き検証(論理の飛躍を潰す)
3. 三本足(発生×検知×仕組み)
発生(Specific):なぜ起きた?
検知(Detection):なぜ見逃した?
仕組み(Systemic):なぜ許容された?
8. まとめ:5Whysは「回数」ではなく「設計」で勝つ
5Whysが形骸化する最大要因は、問題意識と問題定義の弱さ
深掘りは近視眼になりやすい。だから 四つの目(鳥・虫・魚・コウモリ)でズームを往復する
再発防止を強くするなら 三本足(発生×検知×仕組み) が効く(“人のせい”に収束しにくい構造を持てる)
対策はVEで選ぶ。価値=機能/コストで「やり過ぎ」を避ける
AIは補助輪として強い。最後はHuman-in-the-Loopで証拠と意思決定を固める
9. 今後のアクションへ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
5Whysは、題材(品質/システム障害/CVR低下/離職増など)によって「効く問い」が変わります。もし「このケースを一緒に5Whysで掘りたい」というテーマがあれば、コメント欄またはContactから気軽にご連絡ください。
10. 参考文献
5Whys手法の起源と定義
5Whys手法の効果と限界に関する研究
- Our first review: an evaluation of effectiveness of root cause analysis – PMC
- Five Whys Root Cause System Effectiveness – WKU
AI支援による根本原因分析
三本足の5Whys
- 3 Legged 5 Why Analysis Training
- Three Legged 5 Whys | Lean Community
- The 3-Legged 5 Why Method – Quality Magazine
実務ガイド
VE(Value Engineering)
ファクトチェック実施日: 2025年12月25日


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