トヨタの現場やプロジェクトでは、会話の中に独特の言葉が当たり前のように出てきます。
「なぜなぜ」「ヨコテン」「現地現物」「大部屋」「かんばん」——。初めて聞くと難しく見えますが、実はこれらは“専門用語”というより、品質を守り、手戻りを減らし、意思決定を速くするための共通言語です。
このページは、そうしたトヨタ用語を カテゴリ別に引ける辞典(ハブ)としてまとめたものです。
意味だけでなく、「その言葉が出た瞬間に、何を確認し、どう動くべきか」まで短く整理しています。
また、開発イベントの節目(AS→FS→CV→1A→量確→品確→L/O) と、商品改訂の区分(〇新/〇モ/〇マ/〇カ) を押さえると、資料や会話が一気に読みやすくなります。
現場の改善(TPS、ムダ取り、標準作業、かんばん)を理解したい
企画・開発の進め方(A3、根回し、面着、大部屋活動)を押さえたい
トヨタ系の会議や資料をスムーズに読めるようになりたい
そんなときに、必要な言葉から拾って使ってください。
使い方のコツ
その言葉をきっかけに「現場のどこを見て、どんなアクションを起こすべきか」をセットで考えましょう。
状況が混乱して解決策が見えない時は、「本来のルール(標準)」と「今のズレ(異常)」、そして「仕事が止まっている場所(流れの悪さ)」の3点に立ち返って整理しましょう。
- 言葉の意味を暗記するより、それを使って『今、何をすべきか』を判断しよう。迷ったら『理想と現実のズレ』と『仕事の詰まり』を確認すれば答えが見えてくるということをこれらの言葉は教えてくれます。
1. 思想・行動原理(Principles)
TPS(トヨタ生産方式):ムダを徹底排除し、QCDを同時に成立させる考え方。
トヨタウェイ:価値観と行動の拠り所(改善/人を大切にする)。
2本柱(JIT/自働化):TPSの骨格。施策がどちらに効くかで整理する。
ジャスト・イン・タイム(JIT):「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」。
自働化(ニンベン):異常を検知したら止まる/止められる仕組み。
現地現物(Genchi Genbutsu):現場の実物・事実で判断する。
三現主義:現地(現場)・現物・現実で確かめる姿勢。
後工程はお客様:次工程が困らない品質・状態で渡す。
品質は工程で作り込む:検査で“見つける”より、工程で“不良を出さない”。
問題は宝:問題を隠さず、改善の起点として扱う(見つけた人が評価される文化をつくる)。
守破離:まず型(標準)を守り、次に破り、最後に離れて創造する(育成の合言葉)。
2. ムダ取り・改善の見立て(Waste / Metrics)
ムダ/ムリ/ムラ(3M):改善の基本レンズ(まず分類して狙いを定める)。
7つのムダ:つくりすぎ/手待ち/運搬/加工/在庫/動作/不良。
付加価値:顧客が対価を払う変化だけが価値(それ以外はムダ候補)。
SQCD(/SQDCM):安全・品質・コスト・納期(+士気等)。施策の評価軸。
リードタイム:開始から完了までの総時間(滞留を含む)。短縮の最優先指標になりがち。
サイクルタイム:作業1回に要する時間(タクトとの比較が重要)。
稼働率/停止ロス:設備やラインが止まる要因(段取り・故障・チョコ停など)を分解する。
チョコ停:短時間停止の積み上げが大きなロスになる、という現場あるある。
ボトルネック:全体の流れを決めている制約工程(ここを外さない改善は効かない)。
日常管理/異常管理:普段は標準通りに回す、逸脱したら即対応する(管理の基本)。
管理点:品質・生産で“ここだけは外すな”という監視ポイント。
見える化:問題が自然に目に入る状態をつくる(属人的監視を仕組みに置換)。
3. 流れ・JIT・かんばん(Flow / Pull System)
1個流し:まとめずに流し、滞留を減らす(不良の早期発見にも効く)。
流れ化:工程をつなぎ、停止・滞留を減らす設計。
タクトタイム:需要から逆算した1個当たりの許容時間。
平準化(ヘイジュンカ):品種・量のばらつきをならし、安定稼働をつくる。
かんばん:引取り・補充の情報を担う道具(JIT運用の要)。
引取りかんばん:後工程が必要分を引き取る指示。
仕掛けかんばん:前工程が作る(補充する)指示。
プル(引取り)方式:後工程起点で必要分だけ動かす。
プッシュ(押し出し)方式:前工程都合で押し出す(在庫増の起点になりやすい)。
スーパー(部品スーパー):小在庫の置き場(補充の基準点)。
FIFO(先入れ先出し):滞留の順序を守る仕組み(古いものが残る事故を防ぐ)。
ペースメーカー工程:流れ全体の“拍(ペース)”を決める工程(改善設計で重要)。
水すまし:部品供給・回収を専門に行い、作業者のムダ動作を減らす。
ミルクラン:定時・定ルートで集配し、物流のムラと運搬ムダを減らす。
段取り替え(段取り):切替作業。短縮が平準化・小ロット化の鍵になる。
4. 標準作業・現場運営(Standard Work / Shopfloor)
標準作業:現時点で最良の手順(安全・品質・生産性)。改善=標準の更新。
標準作業の三要素:タクトタイム/作業順序/標準仕掛(標準の基本セット)。
作業順序:作業の最適な順番(品質を守りつつタクトに合わせる)。
標準仕掛(標準手持ち):工程内に置くべき最小限の仕掛(流れ維持の要)。
山積み(工数山積み):作業配分を可視化し、負荷を均す(ムリ・ムラの発見に強い)。
ラインバランシング:工程間の負荷を均す(ボトルネックの解消に直結)。
少人化:改善で必要工数を減らす(人減らしではなく工数低減)。
多能工:複数作業をこなせる人づくり(変動に強い)。
U字ライン:少人数で複数工程を回しやすい配置。
3定(定位・定品・定量):置き場・モノ・数量を固定し、探すムダを消す。
5S:整理・整頓・清掃・清潔・しつけ(改善の土台)。
目で見る管理(管理板):状態が一目でわかる管理(聞かなくてもわかる)。
アンドン:異常を知らせ、止める判断を支援する仕組み。
指差呼称:ミスを減らす安全・品質の基本動作(現場教育で頻出)。
5. 品質づくり込み・設備(Quality / Equipment)
工程内保証:工程で良品を保証して次へ流す考え方。
源流管理:上流(設計・工程設計)で品質をつくり込む。
ポカヨケ:うっかりミスを起こさせない仕掛け。
止める・呼ぶ・待つ:異常時の基本動作(流出防止の前提)。
異常:標準から外れた状態(放置しない/放置できない)。
不良を作らない/流さない/受け取らない:品質の基本姿勢(工程間の約束事)。
変化点管理:人・設備・材料・方法の変更点を押さえる(事故の芽を潰す)。
4M:Man/Machine/Material/Method(変化点・原因の切り口)。
TPM:設備総合効率を高める保全活動。
自主保全:現場が日常点検・清掃で設備を守り、異常を早期発見する。
予防保全:壊れてから直すのではなく、壊れる前に手を打つ。
初期流動管理:立上げ期の不安定さを重点管理する(新工程・新製品の必須作法)。
なぜなぜ+再発防止:品質トラブルを“現象の鎮火”で終わらせず、仕組みで止める。
6. 問題解決・企画/開発・合意形成(Problem Solving / Office)
なぜなぜ(5Whys):真因に辿り着く掘り下げ。(関連記事)
真因:再発を止める“本当の原因”(対症療法で終わらせない)。
ヨコテン(横展開):学び・対策を水平に広げる。
A3:A3用紙1枚で問題解決や提案を整理する型(合意形成が速い)。
QCストーリー:問題解決の型(現状→要因→対策→効果確認→標準化)。
標準化:良いやり方を“誰でも再現できる形”に固定する(改善のゴール)。
再発防止:人の注意ではなく、仕組み・標準・設計に落とす。
大部屋(Obeya)活動:関係者が同じ場で情報共有・意思決定を速める。
発想(Ideation):解の量産だけでなく“問い”の磨き込みを含む。
事業構想:価値・顧客・実現手段・収益・体制を一体で描く。
根回し:正式決裁前に論点を潰し、合意形成を前倒しする。
面着(めんちゃく):重要論点は対面で詰める(誤解と手戻りを減らす)。
3D活動:「だれが/どこまで/どうやるか」を明確にする動き(曖昧さ除去)。
方針管理(ホウシンカンリ):方針を現場の活動まで落とし、進捗を回す管理。
号口(ごうぐち):量産・市場投入フェーズ(運用や品質保証の文脈で出る)。
号試(ごうし):量産前後に実ラインで流して確認する“試し”。
7. 開発イベント/変更区分(○新/○モ/○マ/○カ)
〇新(○新/まるしん):新型・新規(All-new)の文脈で使う略号。新モデル投入や“新”扱いの企画を示す際に出る。
〇モ(○モ/まるも):モデルチェンジ(一般にフルモデルチェンジの意味で使われることが多い)。世代が切り替わり、車両型式まで変わる規模の変更。
〇マ(○マ/まるま):マイナーチェンジ。モデルライフ途中の中規模変更(意匠・装備・商品力向上など)。規模が大きい場合に 大〇マ と表現されることもある。
〇カ(○カ/まるか):改良。マイナーチェンジより小さい変更として扱われることが多く、法規対応や安全対応などの目的で実施されるケースが典型。規模が大きい場合に 大〇カ と呼ぶこともある。
AS(Advanced Stage):量産開始の約24カ月前。開発初期の節目で、基本性能やレイアウト成立性を確認するための先行試作車を作り、機能面の成立性を検証する段階。
FS(Final Stage):量産開始の約18カ月前。デザインや仕様の最終決定を行う節目で、「デザインフリーズ」がここで行われることが多く、大きな変更が難しくなる判断ポイント。
CV(Confirmation Vehicle):量産開始の約12カ月前。量産図面にかなり近い状態で性能確認車を作り、衝突安全・耐久・走行性能などの最終評価で設計不具合を出し切る段階。
1A(1次号試):量産開始の約6カ月前。量産ラインで組付けて作業性・設備・治具などを確認
量確(MPT):約2カ月前。量産条件で流して量産上の問題がないか確認。
品確(QCS):約1カ月前。立上げ前の最終品質監査。
- L/O(Line Off / SOP):量産開始。
8. 番外編:会社・組織の略称(例)
※略称は重複・揺れが起きやすいので、資料・文脈で正式名称を確認する運用が安全です。
TMC:Toyota Motor Corporation(トヨタ自動車 本体)
TICO(通称:ショッキ):Toyota Industries Corporation(豊田自動織機)
TTC(通称:トヨツウ):Toyota Tsusho Corporation(豊田通商)
TS:TOYOTA SYSTEMS(トヨタシステムズ)
TC:Toyota Connected(トヨタコネクティッド)
TFSC / TFS:Toyota Financial Services(金融統括の文脈)
TFC:TOYOTA FINANCE CORPORATION(トヨタファイナンス)
KTC:KINTOテクノロジーズ(クルマのサブスクKINTOのシステム会社)
TMT:TOYOTA Mobility Tokyo Inc.(トヨタモビリティ東京)
まとめ
トヨタ用語は暗号ではなく、意思決定を速くし、品質と流れを守るための共通言語です。
まずは 標準(あるべき姿)→異常→真因→標準更新 のループで捉え、会議でも現場でも「何を確認すべきか」に結びつけて使うと、用語が一気に実務化します。
ここで整理したトヨタ用語は、単なる専門語ではなく、「現場と企画の意思決定を揃える“共通言語”」として機能します。
では、その共通言語を支える土台は何か。豊田綱領やトヨタウェイに代表される「哲学」と、環境変化に合わせて形を変える「進化」の両輪から、トヨタの組織力を分解した記事もおすすめです。


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