守破離(Shu-Ha-Ri)

Behavioral Principles

Summary

守破離とは、型(教え)を守り、破り、離れて自分の型に昇華する、熟達の三段階を示す考え方です。

ひとことで言うと「型に従い、型を超え、型を創る」です。

いつ使うか:育成・研修設計、OJTの型づくり、組織の標準化→改善(カイゼン)、マーケ施策の“勝ちパターン”構築、生成AI運用(プロンプト/評価手順の標準→検証→独自化)のロードマップを言語化したいときに使います。


秀逸ポイント

守破離の強さは、「自由=好き勝手」ではなく「本(もと)を忘れない自由」を前提にしている点です。茶の湯の文脈では、もともと軍法用語であることを断りつつ、守は下手、破は上手、離は名人という“段階の呼び名”として説明されます。
この構造が優れているのは、上達を「知識量」ではなく「型の内在化→意図的逸脱→原理への回帰(しかも型を守る)」として捉えるところです。結果として、学習者がやりがちな二つの落とし穴──(1) 早すぎる自己流(守の省略)と、(2) 形式だけの模倣(守で停止)──を同時に避けられます。ビジネスでも座右の銘として引用されやすいのは、この“成長の筋道”が、技能・判断・精神面(心構え)の三つをまとめて説明できるからです。


提唱者・発表時期

結論から言うと、守破離は「特定の一人が学術的に提唱した理論」というより、江戸期の茶の湯(および武家文化)で言葉として定着し、後世に広い分野へ流通した“修行語”です。出典は諸説あり確定しにくい、という整理が公的調査でも示されています。

信頼できる手がかりとしては次が重要です。

  • 国立国会図書館のレファレンス協同DBでは、世阿弥の伝書用語索引等を調べても「序破急」はあるが「守破離」は該当なし、とされています(つまり「風姿花伝が出典」という断定はできない)。

  • 同DBは、『日本国語大辞典』が茶書「茶和抄」にある「守破離は軍法用…茶道に取て申候はば…」という趣旨の引用を載せていること、また茶和抄が『茶道古典全集』に収録されていることを示しています。

  • さらに剣道事典の記述として、「不白筆記」(川上不白)で用いられて以来、修行段階を述べる語として用いられるようになった、という説明も挙げられています。

  • 川上不白(1719–1807)は表千家七代(如心斎天然宗左)に学び、江戸千家の流祖として知られます。

補足として、千利休の教えを和歌化したとされる「利休道歌」の一句(規矩作法…本を忘るな)が、守破離の説明で引用されることも多いです。ただし利休本人作か等は慎重に扱うべきで、「~とされる」「後世にまとめられた可能性がある」と留保して語るのが安全です。


詳細説明

守破離の「本当の意味」

守破離は、学習プロセスを三段階に切ることで、努力の方向性を誤らせないための指針です。

  • 守:師・流派・標準の型を忠実に守る段階
    目的は「再現性の獲得」です。言い換えると、型を“考えなくてもできる”ところまで落とすこと。ここでの学習は記憶・反復・矯正が中心になります(Memory & Learningとしては、手続き記憶の形成に近い)。

  • 破:型を破る段階
    目的は「原理の理解と適用範囲の拡張」です。状況に応じて型を変形し、別解を試します。ただし、闇雲なルール破りではなく、守で得た基準(良し悪しの判定軸)を持って逸脱するのが前提です。

  • 離:型から離れる段階
    目的は「独自化」ではなく「統合」です。前段の二つを合して離れ、しかも二つを守る、という言い方が示す通り、原理は保持したまま“型に縛られない”状態を目指します。

この並びは、技能だけでなく精神(心構え)の段階でもあります。空手の文脈でも、最初は教わった形を身につけ、次に自分の形を確立し、最後に形にとらわれない心境を目指す、と説明されています。

語源・混同されがちな論点(世阿弥)

「世阿弥」「風姿花伝」が守破離と一緒に検索されるのは、能楽の構成概念「序破急」と字面が似ている(破が共通)ためです。ただ、世阿弥の伝書を索引で当たっても守破離は確認できない、という調査結果があります。
一方で、世阿弥の芸論には「離見」など、“自分を外から見る”発想があり(花鏡などで説かれる)、守破離の「離」を連想させやすいのも事実です。思想的な近さは語れても、出典を同一視するのは避けるのが無難です。

関連概念との比較(混同防止)

概念 何を三段階にするか キーワード よくある誤用
守破離 修行・熟達の段階 型/原理/統合 破=ただのルール破り、離=勝手気まま
序破急 作品・進行の構成 緩急/展開 学習段階の説明にそのまま転用して混ぜる
標準化→改善(カイゼン) 仕事の手順と改善 標準/逸脱検知/更新 標準を作らず改善だけ始める
スキル獲得段階(例:初心者→熟達者) 判断の質の変化 ルール依存→直観 直観を早期に正当化する

AIマーケティングへの接続

生成AI活用は「守破離」と相性が良いです。最初に“型”として、プロンプトのテンプレ、評価観点(事実性・一貫性・トーン)、ログの残し方を標準化します(守)。次に、商材やチャネルに合わせてテンプレを意図的に崩し、A/Bで勝ち筋を検証します(破)。最後に、テンプレに縛られずとも、毎回同じ品質に着地できる判断基準とチェックリストが身体化した状態が(離)です。アジャイル界隈でも、Shu-Ha-Riが学びの進行を説明する枠組みとして使われています。


具体例/活用案

1) 武道・芸道の稽古(原典に近い使い方)

稽古の設計を「守(基本の型を反復)→破(工夫で型を変形)→離(型にとらわれない)」として説明するのは、武道側の公式発信にも見られます。指導者が「今は守に徹して良い」と明確に言えるため、学習者の焦りを抑え、上達の基準を共有できます。

2) アジャイル導入(Scrumなど)

チーム立ち上げ期に「まずはScrumを教科書通りにやる(守)」→「コンテキストに合わせて調整する(破)」→「原則を守りつつチーム固有のやり方に昇華する(離)」という説明は、Scrumコミュニティで繰り返し使われています。変革が失速する典型は、守を飛ばして“うち流Scrum”を始め、検証不能になるパターンです。

3) マーケ施策(運用型広告・CRM・SEO)の型づくり

  • 守:配信設計の標準(命名規則、UTM、訴求カテゴリ、LP要件、計測定義)を固定し、再現性のあるベースラインを作る

  • 破:勝ちパターンの仮説を立て、LP・オファー・クリエイティブを意図的に変えて検証する(A/B、リフト検証)

  • 離:媒体や流行の変化に左右されず、顧客理解と計測原理から施策を組み立て直せる(型に縛られないが、本(原理)は忘れない)

4) 座右の銘としての使い方(注意点込み)

守破離は「座右の銘」として引用されがちです。実際、学習や仕事の心構えとして触れる例もあります。
ただし座右の銘化すると、「破=反抗」「離=独立して好きにする」と短絡しやすいので注意が必要です。原典系の説明では、軍法用語であることを断りつつも、茶道に引き直す際に“用方違ひ”を自覚して語っています。都合の良い解釈だけを抜き出すのは、守破離そのものに反します。

誤用の典型(やってはいけない)

  • 「創造性のために最初から型は要らない」:守が欠落し、比較基準が消えます(改善ではなく漂流になります)

  • 「破=ルール破りが偉い」:逸脱の理由が説明できず、再現性が失われます

  • 「離=過去の型を否定する」:本(原理)まで捨てると、ただの忘却です(原典の警句と逆方向です)


よくある質問(FAQ)

Q1. 守破離の出典は世阿弥の風姿花伝ですか?

A. 断定はできません。少なくとも世阿弥伝書の用語索引等を調べても守破離は確認できず、出典は諸説で確認困難とされています。

Q2. 序破急と守破離は同じですか?

A. 同じではありません。序破急は主に構成・進行(緩急や展開)を説明する枠組みで、守破離は修行・熟達の段階を説明する枠組みです。混ぜると誤解が増えます。

Q3. 「破」は型を壊すことですか?

A. 型を捨てるのではなく、守で得た基準を持ったうえで、意図的に逸脱・変形する段階です。基準がない破は、単なる無秩序になりがちです。

Q4. 「離」になったら師匠や標準は不要ですか?

A. 不要ではなく、前段の二つを合して離れ、しかも二つを守る、という説明が示す通り、原理は保持したまま自由度が上がる状態です。

Q5. 守破離の「守」はどのくらいの期間続けるべきですか?

A. 「守」は期間で区切るより、到達条件で区切るほうが実務的です。目安は、①手順(型)を見なくても再現できる、②品質基準(良し悪し)が自分の言葉で説明できる、③失敗の原因を型に照らして特定できる、④例外ケースでも“守るべき核心”と“変えてよい部分”を切り分けられる、の4点が揃ったら「破」に進めます。逆に、成果がブレる/判断が人によって割れる/再現できないうちは「守」が不足しているサインです。

Q6. 守破離とDreyfusモデルはどう違いますか?

A. 守破離は「型との関係(守る→意図して崩す→型に縛られず統合する)」で熟達を説明する枠組みで、教育・育成の指針として語られやすいのが特徴です。PMIの文脈でも、学習・成熟の段階として守破離が扱われています。
一方Dreyfusモデルは、技能獲得が「ルール依存→状況理解→直観的熟達」へ移る過程を、Novice〜Expert(場合によりMasteryまで)など複数段階で記述するモデルです。守破離より粒度が細かく、“判断のしかた”の変化が主眼です。
対応づけるなら、守≒Novice/Advanced Beginner、破≒Competent/Proficient、離≒Expert(〜Mastery)に近いことが多いですが、1対1対応ではありません。

※Dreyfusモデル(ドレイファス技能獲得モデル)
Dreyfusモデルは、人がスキルを身につける過程を「初心者→上級初心者→一人前→熟達者→達人(Expert)」のように段階化して説明する枠組みです。最初はルールや手順に強く依存し、経験が増えるほど状況の“勘どころ”が見えるようになり、最終的には直観的に適切な判断ができるようになる、という変化に注目します。

Q7. 「型がなければ形無し」という言葉と守破離の関係は?

A. この言葉は、「守」を飛ばして自己流に走る危険を、短く刺さる形で表現したものです。型がある人が“型を破る”から型破りであり、型がない人が破ると形無しになる、という趣旨で語られます。守破離の「守→破」の接続条件を示す警句として相性が良いです。

Q8. 守破離はマネジメントや新人教育にどう使えますか?

A. 使いどころは「標準化→育成→改善」を一本のストーリーにすることです。具体的には、(1)守:標準手順・チェックリスト・判断基準(Definition of Done)を用意し、最初は“同じやり方で同じ品質”を徹底します。(2)破:小さな改善提案を許可し、どこを変えたか/なぜ変えたか/結果はどうかを記録して学習します。(3)離:職種や状況が変わっても原理で組み立て直せる状態(後輩に教えられる、例外処理ができる)に引き上げます。PMIのアジャイル領域でも、成熟・育成の観点で守破離が参照されています。

Q9. AIツール(ChatGPT等)の利用にも守破離は適用できますか?

A. 適用できます。守は「型=運用ルール」を固める段階です(用途別プロンプト、事実確認の手順、参照元の残し方、禁止事項、出力の品質基準など)。破は、型を意図的に崩して精度・速度・再現性が上がる条件を実験し、勝ちパターンを更新する段階です(A/B、プロンプト差分、評価観点の改善)。離は、ツールの癖を理解したうえで、目的から逆算して使い分け、必要なら“使わない判断”もできる段階です。PMI(Disciplined Agile)でも学習段階の比喩としてShuhariを採用しています。

Q10. 守破離と守破離モデル(PMI)は同じですか?

A. 「別物の新モデル」というより、PMIが守破離(ShuHaRi)を学習・成熟の段階表現として取り入れている、という理解が近いです。PMIの公式ページでも、認定プログラムの学習段階をShuhariで表しています。
ただし、PMIの文献では由来を能(Noh theatre)として説明するなど、起源の語り口は資料によって揺れます(守破離そのものは茶道・武道など広い文脈で語られてきたため、出典は諸説になりやすい)。

※PMI(Project Management Institute)
PMIは、プロジェクトマネジメントの知識体系・資格(PMPなど)を提供する国際的な専門団体です。
この記事内で「PMIの守破離(ShuHaRi)」と言うときは、PMIが“独自の守破離モデル”を新しく作ったという意味ではなく、PMI(特にDisciplined Agile領域)が、学習・成熟の段階説明として守破離(Shu/Ha/Ri)を採用している、という意味です。


すぐ使える問い(Killer Question)

  1. いまのチーム(または自分)は「守」を終えていないのに「破」を正当化していないか?
    重要性:守が未完だと、良し悪しの基準が共有されず、改善が成果ではなく好みに引っ張られます。

  2. 私たちが守っている“型”は、何を守るための型か(測っている指標・顧客価値・品質定義に接続しているか)?
    重要性:目的と切れた型は儀式化します。AI運用でも、評価軸が曖昧だと学習が進まず、属人化します。

  3. 「離」に到達したとき、何を捨て、何を残すのか(本=原理を言語化できるか)?
    重要性:離は否定ではなく統合です。本を言えない離は、ただの変更で終わります。


参考文献リスト


📖 カテゴリ A:守破離の出典・歴史に関する一次資料・公的調査

埼玉県立久喜図書館. (2006, January 21). 「守破離」の出典は世阿弥の「風姿花伝」と聞くが本当か [レファレンス事例 ID: 1000029440]. 国立国会図書館レファレンス協同データベース. https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000029440&page=ref_view

近畿大学中央図書館. (2008, March 27). 「守破離」の意味を知りたい [レファレンス事例 ID: 1000042957]. 国立国会図書館レファレンス協同データベース. https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000042957&page=ref_view

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📖 カテゴリ B:守破離に関する学術論文・研究資料

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📖 カテゴリ C:機関・公式サイト(.jp ドメイン)

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📖 カテゴリ D:アジャイル・Scrum文脈での守破離

Fowler, M. (2006, September 30; updated 2014, August 22). ShuHaRi. Martin Fowler’s Bliki. https://martinfowler.com/bliki/ShuHaRi.html

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北野大祐. (n.d.). アジャイルの守破離と心. Agile Studio Blog. https://www.agile-studio.jp/post/the-heart-of-agile-interview

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