Summary
「ラダリング」:ターゲティングと顧客理解で、“なぜそれが欲しいのか”を価値観まで掘り下げるためのインタビュー技法です。
ひとことで言うと「“属性→結果→価値”をはしご状につなぐ深掘り面接」
いつ使うか:訴求軸やブランド価値が“それっぽい言葉”で止まり、購買理由の核(インサイト)が言語化できないとき。
秀逸ポイント
ラダリングの強みは、顧客の発言を「好み・印象」の羅列で終わらせず、選択の根拠を“意思決定の構造”として再現できる点です。手段(商品属性)と目的(価値)を結ぶMeans-End Chainの考え方にもとづき、表層のメリットだけでなく、機能的・心理社会的な結果(consequence)を経由して、最終的に個人の価値(value)へ到達させます。
また、分析結果を階層マップ(HVM)として可視化することで、コピー/クリエイティブ/LPの論理線が通りやすく、関係者合意が取りやすいのも実務上の利点です。
さらに、評価グリッド法のように「評価項目の階層構造」を引き出す枠組みと相性が良く、UXや商品開発の文脈でも応用が効きます。
提唱者・発表時期
ラダリングは、もともと臨床心理学/パーソナル・コンストラクト理論の文脈で、Dennis Hinkle の研究(1965)を起点に発展し、後にBannister & Mair(1968)が “laddering” と呼称したと整理されます。
マーケティング/消費者行動研究として広く定着したのは、Means-End Chain(MEC)理論(Gutman, 1982)と、その実務的な面接・分析手順を体系化した Reynolds & Gutman(1980年代、とくに1988年の整理)以降です。
日本では、レパートリーグリッドを発展させた「評価グリッド法」が 讃井純一郎・乾正雄(1986)により提案され、階層的な評価構造を引き出す実務手法として普及しました(ラダーリングを中核プロセスとして含む)。
詳細説明
ラダリングは、一対一の深層インタビューで「なぜそれが重要か?」を繰り返し、発言を 属性(Attribute)→結果(Consequence)→価値(Value) の鎖として抽出する技法です。MEC理論は、消費者が“望ましい状態(価値)”を実現するために“手段(商品・サービスの属性)”を選ぶ、という仮定を置きます。
1) 進め方(実務で外さない骨格)
起点(A):具体的な特徴・選好(例:軽い、サブスク、無添加、UIがシンプル)
ラダーアップ(C→V):「それがなぜ良い? それはあなたにとって何をもたらす?」で上位概念へ
ラダーダウン(Aの具体化):抽象語が出たら「具体的に何がどうなって?」で下位へ(例:安心=何に不安?どんな場面?)
この“上下運動”で、聞き手の誘導ではなく、本人の認知構造として鎖を作るのが肝です。
2) アウトプット(分析:HVMまで持っていく)
代表的には、発言をコード化し、リンクの頻度を整理して、階層的価値マップ(Hierarchical Value Map; HVM)として可視化します。
ここまで行くと「どの属性を語れば、どの価値に最短で届くか」という訴求設計が可能になります。
3) 関連用語との違い(混同ポイント)
| 近い概念 | 何が違うか | 使い分けの目安 |
|---|---|---|
| 5 Whys(なぜなぜ) | 原因究明(プロセス不具合)に寄りやすい。価値観まで行かないことが多い | 品質・業務問題は5Whys、顧客の意味世界はラダリング |
| 評価グリッド法 | レパートリーグリッド由来で、評価構造図を面接中に組み立てやすい実装形 | UX/デザイン・商品開発で“評価軸の体系化”が目的なら強い |
| ZMET | 画像・メタファで暗黙知を引き出す。ZMETの面接設計でラダリングが併用されることがある | 言語化が難しい感情・象徴を扱うならZMET、訴求の論理線を作るならラダリング |
| コンジョイント | 選好の“重み付け”は強いが、意味(なぜ)には弱い | 「何が効くか」はコンジョイント、「なぜ効くか」はラダリング |
4) 典型的な落とし穴
誘導質問で“作られた価値”になってしまう(聞き手の仮説を当てに行く)
抽象語で止める(例:安心・信頼・時短…の定義が人により違う)
セグメント差を潰す(同じ“安心”でも、家族・健康・金銭・社会評価で意味が別)
5) AIマーケティングとの接続
ラダリングは、逐語録のコーディング/クラスタリング/HVMの叩き台作成にAIが効きます。一方で、LLMは“もっともらしい連鎖”を補完してしまうリスクがあるため、(a)逐語録根拠の明示、(b)コード定義の辞書化、(c)人手での再検証をセットにすると実務品質が上がります(調査の監査性を担保)。
具体例/活用案
公開事例(研究・論文で確認できる範囲)
顧客クレーム対応の設計:苦情経験者へのラダリング面接からHVMを作り、男女などの属性で「何が不満で、何が満たされると“公正感/尊重”に繋がるか」を比較し、対応設計に示唆を出す研究があります(企業名は研究設計上、公開されないことが多い)。
体験価値(ホスピタリティ等):ZMETや写真喚起と組み合わせ、体験属性→感情的結果→価値の連鎖を抽出する応用が報告されています。非言語の比率が高い体験設計では、この組み合わせが有効になりやすいです。
商品開発・品質機能展開(QFD)への統合:評価グリッド法(階層化インタビュー)を要求品質の整理へ接続し、開発へ落とす研究もあります。
実務での使いどころ(再現しやすい“型”】【※以下は一般化した例(特定企業の事実ではありません)】
訴求軸の棚卸し(LP改善/広告コピー)
A:UIがシンプル → C:迷わず使える → C:失敗しない → V:自分は仕事ができる(自己効力感)
この鎖が見えると、「機能説明」ではなく「失敗回避・自己効力感」に届く言葉へ翻訳できます。
ターゲット別の価値の違いを分岐させる(セグメンテーションの裏取り)
同じ「時短」でも、
子育て層:家族時間(V)
管理職:評価・信頼(V)
クリエイター:創造の余白(V)
というように上位価値が分岐します。ここを混ぜると刺さらないメッセージになります。
評価グリッド(評価項目の階層化)で“比較の軸”を作る
競合比較で「なんとなく良い」を、上位(感性・価値)と下位(具体条件)に分解し、意思決定者が比較可能な形に整えます。
誤用の例(注意喚起)
「ラダリング=深掘り雑談」になっている:価値に届く前に話が拡散し、意思決定に使えない。→ A-C-Vの型に戻して鎖として記録する。
“価値観ワード”を盛りすぎる:最後に出た抽象語を全部ブランドメッセージに入れると、誰にも刺さらない。→ HVMで「頻度×到達パス」の太い幹だけを残す。
AIに要約させて根拠が消える:調査は監査性が命。→ 要約と同時に「どの発言に由来するか」を必ず紐付ける。
すぐ使える問い(Killer Question)
私たちの訴求は“属性の説明”で止まっていないか?(止まっていると比較戦になりやすい。結果・価値まで言語化できて初めて、選ばれる理由になる)
同じキーワード(例:安心・時短)が、ターゲットごとに別の価値へ分岐していないか?(分岐を潰すと、メッセージが平均化して誰にも刺さらない)
顧客の言葉を、社内の都合の良い“それっぽい価値”に上書きしていないか?(誘導や解釈の飛躍は、調査の信頼性を落とし、施策の外しにつながる)
参考文献リスト
主要学術論文
Hinkle, D. N. (1965). The change of personal constructs from the viewpoint of a theory of construct implications [Doctoral dissertation, Ohio State University]. OhioLINK ETD. https://rave.ohiolink.edu/etdc/view?acc_num=osu1486568659463654
Bannister, D., & Mair, J. M. M. (1968). The evaluation of personal constructs. Academic Press.
Gutman, J. (1982). A means–end chain model based on consumer categorization processes. Journal of Marketing, 46(2), 60–72. https://doi.org/10.2307/1251455
Reynolds, T. J., & Gutman, J. (1988). Laddering theory, method, analysis, and interpretation. Journal of Advertising Research, 28(1), 11–31. [被引用回数: 3,769回]
讃井純一郎・乾正雄 (1986). レパートリー・グリッド発展手法による住環境評価構造の抽出:認知心理学に基づく住環境評価に関する研究(1). 日本建築学会計画系論文報告集, 第367号, 15-22. [被引用回数: 197回]
理論的背景
Kelly, G. A. (1955). The psychology of personal constructs (Vols. 1-2). W. W. Norton.
Veludo-de-Oliveira, T. M., Ikeda, A. A., & Campomar, M. C. (2006). Discussing laddering application by the means-end chain theory. The Qualitative Report, 11(4), 626-642.
関連手法
Five Whys. (n.d.). In Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Five_whys
Zaltman, G. Zaltman Metaphor Elicitation Technique (ZMET). Olson Zaltman. https://www.olsonzaltman.com/zmet
Green, P. E., & Srinivasan, V. (1978). Conjoint analysis in consumer research: Issues and outlook. Journal of Consumer Research, 5(2), 103-123.
日本語文献
辻村壮平 (2017). 階層的に構造化された評価を引き出すための評価グリッド法. 日本音響学会誌, 73(12), 783-790. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/73/12/73_783/_article/-char/ja/
讃井純一郎 (2000). ユーザーニーズの可視化手法 評価グリッド法 (EGM). 人間工学, 36(Supplement), 60-61.
オンライン資料
PCP-Net. Hinkle’s theory of construct implications. https://www.pcp-net.org/encyclopaedia/hinkle.html
PCP-Net. Laddering. https://www.pcp-net.org/encyclopaedia/laddering.html
E-Grid. 評価グリッド法ビジュアル分析システム. https://egrid.jp/about
CiNii Research. レパートリー・グリッド発展手法による住環境評価構造の抽出. https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204776233600
追加参考資料
Pike, S. (2012). Destination positioning opportunities using personal values: Elicited through the Repertory Test with Laddering Analysis. Tourism Management, 33(1), 100-107. [被引用回数: 220回]
Wansink, B. (2003). Using laddering to understand and leverage a brand’s equity. Qualitative Market Research: An International Journal, 6(2), 111-118. [被引用回数: 215回]
Audenaert, A., & Steenkamp, J. B. E. M. (1997). Means-End Chain Theory and Laddering in Agricultural Marketing Research. In Agricultural Marketing and Consumer Behavior in a Changing World (pp. 217-230). Springer.
Hall, J., & Lockshin, L. (2000). Using means-end chains for analysing occasions – not buyers. Australasian Marketing Journal, 8(1), 45-54. [被引用回数: 155回]
検証日
2026年1月26日


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