カスタマージャーニー

Marketing Frameworks

Summary

「ターゲティングと顧客理解」の中でのカスタマージャーニーは、ペルソナ(誰が)×状況(いつ/なぜ)を起点に、顧客の行動・思考・感情を時系列で統合して理解するための基盤です。

ひとことで言うと「顧客体験を“時系列の物語”として捉える設計図」

新規獲得〜継続・解約まで、施策が点で効いているのに全体では伸びない時に使います。

秀逸ポイント

カスタマージャーニーの価値は「タッチポイント最適化(点)」を「体験最適化(線・面)」へ引き上げるところにあります。部門ごとにKPIを磨いても、顧客は“端から端まで”で評価します。だからこそ、購買・利用・サポートなどの複数チャネルをまたぐ移動を、顧客の言葉と感情カーブ(高低)で可視化し、摩擦の根因を特定できます。さらに、定性(インタビュー/VOC)と定量(行動ログ/CV/解約)を同じ地図に載せられるため、AIマーケティング(セグメント別の離脱予兆、次に出すべき情報の推定、チャネル最適配信)の“説明可能な土台”になります。

提唱者・発表時期

「カスタマージャーニー(マップ)」は特定の一人が命名して確立した単一理論というより、サービス設計/UX/マーケティングが合流して普及した実務フレームです。源流の一つは、サービス提供の裏側まで含めて可視化するサービス・ブループリント(1980年代、HBRでのサービス設計の議論など)で、後に「顧客視点の旅(journey)」を先に描き、必要に応じて業務側へ展開する考え方が整理されました。
マーケティング領域では、従来のファネルを置き換える形でMcKinseyのConsumer Decision Journey(2009)が「ループ」や「継続」を含む意思決定プロセスとして広め、2010年代にはUXの標準ツールとして「行動・思考・感情」を含むマップの型が一般化しています。

詳細説明

1) カスタマージャーニーとは何か(定義)

カスタマージャーニー(/カスタマージャーニーマップ)とは、特定の顧客像(ペルソナ)が、特定の状況・目的で、時間の経過とともに何をし、何を考え、どう感じるかを、フェーズ(段階)に分けて可視化する方法です。典型要素は「Actor(誰)」「Scenario+期待」「Phases(段階)」「Actions/Mindsets/Emotions」「Opportunities(改善機会)」です。
“地図(マップ)”にする理由は、複数チャネル・複数部門をまたぐ現実の体験を、同じ視界に収めて意思決定できるようにするためです。

2) 「よく似た用語」との違い(比較表)

以下は混同しやすい概念を、実務で迷いが出るポイントに絞って整理したものです。

概念主語スコープ何を描くか使いどころ
カスタマージャーニーマップ特定の顧客像特定サービス×特定シナリオ行動・思考・感情+改善機会目的別に体験を再設計/優先順位付け
ファネル集合(母集団)購買プロセス中心段階と転換率CV最適化の俯瞰。ただし“前後の体験”は落ちやすい
Consumer Decision Journey集合〜個人意思決定のループ検討→購入→継続(忠誠)など“ループ”や継続を含む意思決定設計
サービス・ブループリント企業側1つの体験を成立させる全体フロント/バックのプロセスと役割業務設計・運用の再設計(ジャーニーの後工程)
エクスペリエンスマップ一般化された人間サービス非依存人が時間の中で何をするか市場創造・新規体験の探索(ジャーニーの親)

ポイントは、ジャーニーは“顧客の時間”が主役、ブループリントは“企業の仕組み”が主役という視点の違いです。

3) 作り方(実務で崩れない最小手順)

「作り方」は流派がありますが、成果が出るチームは概ね次を外しません。

  1. 目的を一文で固定:例)「検討→申込の離脱を減らす」「オンボーディングの不安(感情)を下げる」

  2. Actor(誰)を1つに絞る:1枚に詰めると曖昧になります(必要なら複数枚)。

  3. Scenario(状況)を固定:例)「乗り換え検討」「初回設定」「解約検討」

  4. フェーズ(段階)を粗く置く:最初は3〜7段階で十分(後で分割)。

  5. 行動→思考→感情の順で埋める:感情(不安/面倒/安心)を必ず入れる。

  6. 摩擦(pain point)と根因仮説:タッチポイント単体ではなく“前後関係”で特定。

  7. 機会(opportunity)を“測れる形”に:誰が、何を、どう測るか(指標・オーナー)まで書く。

AIマーケティング文脈では、(5)〜(7)で 行動ログ(イベント)×VOC(テキスト)×属性をつなぐと、セグメント別の感情の谷や離脱予兆を“説明できる形”で扱いやすくなります(例:チャネル別の不安語彙、問い合わせ発生タイミング、解約の先行指標)。

具体例/活用案

事例1:タッチポイント最適化では見えない“線”を改善(保険・エネルギー)

McKinseyは、顧客体験を「エピソード(具体的な一連の経験)」として捉え、エンドツーエンドで設計・改善する重要性を整理しています。
具体例として、ある自動車保険の事故・修理プロセスでは、修理状況に関する不安が強い局面で毎日の進捗通知(メール/SMS)や単一窓口を用意し、パーソナライズされた連絡で“体験の糊(glue)”を作りました。パイロット後にNPSが大きく上昇したと報告されています。
また、欧州のエネルギー小売では「引っ越し」ジャーニーを再設計し、早期連絡の制約・チャネル制約・矛盾する連絡といった不安要因を整理し、Web/アプリ等も含む一貫したコミュニケーションに再設計して成果を出した例が紹介されています。

学び(実務への落とし込み)

  • 施策は“追加”より“接続”が効く:通知頻度、チャネル選好、矛盾排除はジャーニー起点でないと設計しづらい。

  • 「不安(感情)」はコストに直結する:問い合わせ増→バックヤード滞留→再問い合わせ、の連鎖を断てる。

事例2:行政の巨大サービスでも“壁に貼れる地図”で部門横断を起こす

GOV.UKの実務では、ユーザージャーニーマップを「ニーズ発生から利用終了まで、時間の中でサービスを通過する様子」と定義し、複数トランザクション/複数サービスをまたぐ全体像を示すために活用しています。
また、エクスペリエンスマップのガイドでは「ユーザーが時間の中で何をし、何を考え、何を感じるか」を可視化し、壊れている箇所や部門間の依存関係、痛点を理解するのに有効だとされています。
重要なのは、複雑すぎる“全パターン図”にしないことです。GOV.UKの議論でも、ジャーニーは「一回の具体的な経験」を表し、複雑性の全表現は別の手段(プロセス図など)に譲るべき、という指摘が出ています。

事例3:研究として“ジャーニーを体系化”する(Toyota Mobility Foundation)

Toyota Mobility Foundationは、モビリティ領域で使われるジャーニーマップをより体系的に作成・改良するための研究(Journey Maps Project)を公開しており、ケーススタディ(例:サンフランシスコの交通関連の取り組み)を通じて、ジャーニーマップを現実に適用する方法の検証を掲げています。

事例4:航空会社での活用(Emirates)

Forresterは、Emiratesが急成長の中で顧客体験の改善計画や社員教育のためにジャーニーマップを活用したケーススタディを公開しています(詳細はレポート本文参照)。


よくある誤用(注意点)

  1. “タッチポイント一覧”で終わる:顧客が感じるのは前後の文脈込みの体験です。点の満足度が高くても線の評価が低いことが起こります。

  2. 1枚で全セグメントを描く:Actorを増やすほど、意思決定に使えない「抽象図」になります(必要なら複数枚)。

  3. 直線のファネルとして固定する:実際はループや反復が起きます。意思決定や継続の局面を見落とすと、LTV設計が薄くなります。

  4. “成果物納品”で更新しない:本来は、指標・オーナーと紐づけて改善サイクルに入れて初めて武器になります。

すぐ使える問い(Killer Question)

  1. 「このジャーニーで顧客の感情が底を打つ瞬間はどこで、そこで“次に知りたい情報”を何分以内に渡せていますか?」
    感情の谷は離脱・問い合わせの起点になりやすく、情報提示の遅れは不安を増幅します。

  2. 「点のKPI(CVR、応答率)が良いのに、線のKPI(継続、解約、推奨)が悪い“つなぎ目”はどこですか?」
    タッチポイント最適化の盲点をあぶり出し、根因(部門間の齟齬)に踏み込めます。

  3. 「このマップは“誰の意思決定”を変えるためのものですか? オーナーと測定指標が空欄の機会(Opportunity)はどれですか?」
    オーナー不在の改善は実行されず、更新されない地図は陳腐化します(運用設計が肝)。

 

参考文献リスト

1. カスタマージャーニーの理論とモデル

  1. McKinsey & Company (2009). “The consumer decision journey”
    https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/the-consumer-decision-journey
    2009年に発表された循環型の意思決定モデル。従来のファネルに代わる4フェーズのジャーニーを提唱。

  2. McKinsey & Company. “From touchpoints to journeys: Seeing the world as customers do”
    https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/from-touchpoints-to-journeys-seeing-the-world-as-customers-do
    エンドツーエンドのジャーニー設計の重要性と、自動車保険の事例を含む実務的アプローチを解説。

  3. Nielsen Norman Group. “Journey Mapping 101”
    https://www.nngroup.com/articles/journey-mapping-101/
    UX分野における権威的なガイド。ジャーニーマップの5つの基本要素を定義。

2. サービス・ブループリントと関連概念

  1. Shostack, G. Lynn (1984). “Designing Services That Deliver” Harvard Business Review, January 1984
    https://hbr.org/1984/01/designing-services-that-deliver
    サービス・ブループリントの概念を最初に提示した歴史的論文。

  2. Nielsen Norman Group. “Service Blueprinting FAQ”
    https://www.nngroup.com/articles/service-blueprinting-faq/
    カスタマージャーニーマップとサービス・ブループリントの違いを詳細に解説。

3. 実務事例とケーススタディ

  1. Forrester Research. “Case Study: Emirates Uses Customer Journey Maps To Keep The Brand On Course” (Report ID: RES80642)
    https://www.forrester.com/report/Case+Study+Emirates+Uses+Customer+Journey+Maps+To+Keep+The+Brand+On+Course/RES80642
    エミレーツ航空のカスタマージャーニーマップ活用事例をベストプラクティスとして紹介。

  2. Toyota Mobility Foundation. “A Better Journey Mapping Tool for Mobility Service Design”
    https://toyotamobilityfoundation.org/en/research/journeymappingtool/
    スタンフォード大学との共同研究による、モビリティ領域でのジャーニーマップ体系化プロジェクト(2018-2020)。

  3. GOV.UK Service Manual. “Creating an experience map”
    https://www.gov.uk/service-manual/user-research/creating-an-experience-map
    イギリス政府公式のユーザー体験マッピングガイドライン。行政サービス改善における実践的手法を提供。

4. 追加の参考資料

  1. McKinsey & Company. “Customer experience: Creating value through transforming customer journeys” (PDF)
    https://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Industries/Public and Social Sector/Our Insights/Customer Experience/Creating value through transforming customer journeys.pdf
    カスタマージャーニー変革による価値創造の包括的レポート。

  2. GOV.UK Service Manual. “Map and understand a user’s whole problem”
    https://www.gov.uk/service-manual/design/map-a-users-whole-problem
    ユーザーの問題全体を理解するためのマッピング手法。

  3. Nielsen Norman Group. “UX Mapping Methods Compared: A Cheat Sheet”
    https://www.nngroup.com/articles/ux-mapping-cheat-sheet/
    カスタマージャーニーマップ、エクスペリエンスマップ、サービス・ブループリント、共感マップの比較表。

5. 概念の比較と使い分け

  1. Miro. “The Difference Between a Service Blueprint and a Journey Map”
    https://miro.com/customer-journey-map/service-blueprint-vs-journey-map/
    サービス・ブループリントとジャーニーマップの実務的な使い分けを解説。

  2. Custellence. “Customer Journey Maps, Service Blueprints and Experience Maps”
    https://www.custellence.com/whats-the-difference-between-customer-journey-maps-experience-maps-service-blueprints-and-when-to-use-what/
    各マッピング手法の違いと使用場面の詳細な比較。


検証実施日

2026年1月26日

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