Summary
安全・品質・信頼性の領域で、異常を「見える化」し即応を促す現場マネジメントです。
「あんどん=異常を一目で伝え、止めてでも品質を守る“合図の仕組み”」
不具合・遅延・リスク兆候が出た瞬間に、誰でも即時エスカレーションしたいときに使います。
秀逸ポイント
あんどんの本質は「装置」よりも、異常を早期に顕在化させ、被害を局所で食い止める運用設計にあります。Lean Enterprise Instituteは、あんどんを一目で状態把握し、異常を知らせる視覚管理の仕組みとして整理しています。
さらにトヨタのTPS文脈では、異常時に設備が止まる/作業者がコード等で止められるという“自働化(Jidoka)”と結びつき、「流して後工程で直す」より「その場で止めて直す」を優先します。
マーケティング実務に置き換えると、炎上・誤配信・計測破綻・AI生成物のブランド毀損など、“後から回収不能”な事故を早期停止(キルスイッチ)できる体制そのものが価値です。
提唱者・発表時期
「あんどん」は特定の単独提唱者というより、トヨタ生産方式(TPS)の実践の中で体系化・普及した概念として語られるのが一般的です。
背景にはTPSの柱の一つである自働化(Jidoka:異常が起きたら止める)があり、トヨタは異常(品質・設備・作業遅れ等)を検知した際に、設備停止や作業者による停止(コードを引く等)で流出を防ぐ考え方を説明しています。
またJidokaの源流は、豊田佐吉の自動織機(糸切れ等の異常で自動停止)に遡る、とLean Enterprise Instituteが解説しています。
用語としての「あんどん」は、元来“行灯(紙灯り)”に由来するとされ、異常を照らして知らせる比喩としてTPS用語に定着しました。
詳細説明
あんどん(Andon)は、現場の状態を一目で把握できるようにし、異常が起きた瞬間に可視化・通報・即応を起動する仕組みです。Lean Enterprise Instituteは、稼働状況や異常(停止、品質問題、工具不良、作業遅れ、部材不足など)を表示し、必要なアクションを促す視覚管理ツールとして定義しています。
TPSでは、あんどんはJidoka(自働化)と密接です。トヨタは、異常が起きた際に設備が検知して止まる、または作業者がコード等でラインを止められる、と説明しています。 ここで重要なのは「止めること」そのものではなく、異常の流出を止め、原因究明と再発防止につなげることです。つまり、あんどんは“異常管理”の起点(トリガー)であり、改善(カイゼン)につなぐ入口です。
関連用語との違い(混同しやすいポイント)
| 用語 | 目的 | シグナルの意味 | 主に起きるアクション |
|---|---|---|---|
| あんどん | 異常の顕在化・即応 | 「助けて/止めるべき異常」 | 支援者が駆け付け、封じ込め・復旧・記録 |
| かんばん(Kanban) | 流れと在庫の制御(プル生産) | 「作って/補充して」 | 生産・補充を指示(JITの運用) |
| ダッシュボード | 状況把握 | 「現状はこう」 | 読んで判断(即応プロセスは別途必要) |
| アラーム | 異常通知 | 「異常かも」 | 通知のみ(誰が何をするかが曖昧になりやすい) |
“あんどん”が機能する条件(装置より大事な3点)
引いた人が責められない(心理的安全性)
誰が・何分で・どう初動するかが決まっている(SOP/当番/権限)
記録→原因分析→再発防止まで一連で回る(改善ループ)
マーケティングやAIマーケでも同じです。誤配信や炎上、計測異常、生成AIの不適切出力は「後工程で回収」できない場合があります。だからこそ、“異常を見た人が即停止できる”権限設計と、止めた後に復旧・再発防止へつなぐ運用が、信頼性(Reliability)を作ります。
具体例/活用案
1) 製造業:アンドン・コード(典型)
トヨタのJidoka説明では、異常時に設備が止まる/作業者がコード等で止めることで、品質異常や遅れをその場で顕在化させる考え方が示されています。 ここでは「止める=損」ではなく、「流出させる=もっと損」という思想が前提です。
2) 建設・プロジェクト:物理コードがなくても“宣言”がアンドン
Lean Construction Instituteは、建設や設計の文脈で、価値流れの中で“破綻(breakdown)”が起きたことを宣言する行為を「アンドンを引く」と表現しています。 物理装置ではなく、異常の宣言と即応の起動が本体だと分かります。
3) IT/運用:インシデント対応の「Pull the cord」
複雑系の運用では、早期に“赤信号”を上げて是正する文化が重要です。BlackRockのエンジニアリング記事でも、下流環境で異常シナリオを検証し、危険信号があれば“pull the cord”できるようにする、という趣旨が語られます。
マーケ領域なら、広告配信・MA・推薦・価格表示・決済導線などで「異常検知→即停止→影響範囲の封じ込め→原因分析」を一連のRunbook化すると、ブランド毀損や機会損失を抑えやすくなります。
よくある誤用(注意)
表示板を置いただけで満足する(即応プロセスと権限がない)
引いた人を責める(以後、誰も引かず“サイレント障害”になる)
KPI達成のために異常を握りつぶす(安全・品質の目的と逆行)
あんどんは“対策ツール”ではなく、信頼性を上げるための運用OSです。
すぐ使える問い(Killer Question)
いまの業務で「止めないと取り返しがつかない事故」は何で、誰が何秒で止められますか?(権限と初動SLAが曖昧だと、炎上・誤配信・AI誤出力が拡大します)
“異常の定義”は定量化されていますか(例:CVR急落、計測欠損率、生成AIのNG率)?(定義がないと、通知がノイズ化し、重要アラートが埋もれます)
アンドンを引いた後、再発防止まで誰が責任を持つ設計ですか?(復旧だけで終わると、同じ事故が繰り返され信頼性が積み上がりません)
参考文献
トヨタ自動車公式情報源
- トヨタ自動車株式会社(年不明)「トヨタ生産方式 ムダの徹底的排除の思想と」https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/index.html
- トヨタ自動車株式会社(年不明)「トヨタ自動車75年史|トヨタ生産方式|詳細解説 – 2.「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」のルーツ」https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/automotive_business/production/system/explanation02.html
- Toyota Motor Corporation (n.d.). “Toyota Production System.” https://global.toyota/en/company/vision-and-philosophy/production-system/index.html
Lean Enterprise Institute
- Lean Enterprise Institute (n.d.). “Andon – What Is It?” https://www.lean.org/lexicon-terms/andon/
- Lean Enterprise Institute (n.d.). “Toyota Production System.” https://www.lean.org/lexicon-terms/toyota-production-system/
Shingo Institute
- Shingo Institute (n.d.). “Psychological Safety: The Key to Effective Andon Cord Pulls and Continuous Improvement.” https://shingo.org/psychological-safety/
Lean Construction Institute
- Lean Construction Institute (n.d.). “Andon & Declaring Breakdowns.” https://leanconstruction.org/lean-topics/andon-declaring-breakdowns/
企業エンジニアリング記事
- BlackRock Engineering (n.d.). “Operational readiness in complex systems.” https://engineering.blackrock.com/operational-readiness-in-complex-systems-d8171f80559a
学術的・産業的リソース
- Vorne Industries (n.d.). “Andon: Etymology, Origins, & History.” https://www.vorne.com/learn/key-concepts/andon/origins/
- 6sigma.us (2024). “Jidoka – Toyota Production System. A Complete Guide.” https://www.6sigma.us/manufacturing/jidoka-toyota-production-system/
- Toyota UK Magazine (n.d.). “Andon – Toyota Production System guide.” https://mag.toyota.co.uk/andon-toyota-production-system/
- Toyota UK Magazine (n.d.). “Jidoka – Toyota Production System guide.” https://mag.toyota.co.uk/jidoka-toyota-production-system/
追加リソース(日本語)
- 株式会社 豊田自動織機(年不明)「豊田佐吉物語」https://www.toyota-shokki.co.jp/company/history/toyoda_sakichi/
- トヨタ産業技術記念館(年不明)「織機技術の発展」https://www.tcmit.org/research/textile/fiber03
※参考文献は2026年1月時点でアクセス可能な情報源です。
marketing-ai.bizでは、トヨタ用語集のまとめページもあるのでご覧ください。
トヨタ用語集:TPSはもちろん面着・○カ・号口など…現場と企画で使う頻出ワード集(番外編:略称)


コメント