RACE

Marketing Frameworks

Summary

ファネル/購買行動モデルの中でもRACEモデルは、集客〜継続を“運用KPI”で管理するための枠組みです。

RACEとは「デジタル/オムニチャネル施策を“顧客ライフサイクル×KPI”で整列させる計画フレーム」。

流入はあるのに成果が頭打ち、というときに“どこが詰まっているか”を段別に特定して改善するときに使います。

秀逸ポイント

RACEの強みは、「施策の棚卸し」と「測定設計」を同時に前に進められる点です。①Reach(認知・流入)だけで終わらず、②Act(“Interact”=中間コンバージョン)を独立させることで、コンテンツ・UX・ナーチャリングの打ち手が明確になります。③Convertはオンライン/オフライン成約まで含めて設計でき、④EngageでLTV・継続購入・推奨(レビュー/紹介)まで追えるため、短期CPA最適化に偏りにくい。さらに、Paid/Owned/Earnedを横断しながらダッシュボード化しやすく、生成AIによる訴求案・クリエイティブ量産・パーソナライズを「どの段で効かせるか」も整理できます。運用の“抜け”が可視化されるのも実務的です。

提唱者・発表時期

RACEフレームワークは、Smart Insights共同創業者のデジタルマーケティング研究者/実務家であるDr. Dave Chaffey(デイブ・チャフィー)が、2010年に開発したと説明されています。背景には「デジタル施策は増えているのに、戦略や運用設計がないまま実行されている企業が多い」という問題意識があり、オンラインとオフラインを統合して計画・測定できるよう、Reach/Act/Convert/Engageの4段(+Plan)に整理しました。加えて、Web分析向けのREAN(Reach→Engage→Activate→Nurture)が思考に影響した旨も本人が言及しています。

詳細説明

RACEは「デジタル/オムニチャネルの活動を、顧客ライフサイクルに沿って“やること(施策)”と“見る指標(KPI)”をセットで整理する」ための実務フレームです。Smart Insightsは、立ち上げ当時から“デジタルをやっているのに計画や測定の型がない”状態を課題として挙げ、RACEを2010年に提示しました。RACEは4段(Reach/Act/Convert/Engage)に、前提となるPlan(目的・KPI・体制)を加えた5段で語られることもあります(PRACEと呼ばれる場合もあります)。

実務上の肝は、Actを「購入直前」ではなく“Interact(相互作用)=中間コンバージョン”として独立させる点です。広告・SEOで流入を増やしても、比較検討やリード獲得の設計(資料DL、会員登録、見積依頼、来店予約など)が弱いと、Convertの改善が頭打ちになります。RACEはこの“間”を可視化し、CRO/UX、コンテンツ、MA(マーケティングオートメーション)をどこに効かせるかを明確にします。

RACEの設計イメージ(例)

段階目的(何を増やすか)代表KPI(例)主な打ち手(例)
Plan目標・KPI・役割の合意目標値、計測設計、予算配分目標体系(North Star→KPI)、計測(GA4/CRM)、ダッシュボード
Reach認知・流入・接触指名/非指名流入、CTR、リーチ、セッションSEO/広告/PR、SNS、提携、オフライン露出
Act反応・検討・リード中間CVR、滞在、閲覧深度、登録率LP改善、コンテンツ、比較導線、チャット、診断、生成AIのパーソナライズ
Convert成約・契約・購入購入/商談化率、CPA、売上、AOV価格・オファー、リターゲ、営業連携、申込摩擦除去
Engage継続・LTV・推奨継続率、リピート、NPS、レビュー/紹介オンボーディング、CRM、コミュニティ、サポート、アップセル

他モデルとの違いも押さえると運用がブレません。

  • AIDA/AISAS:主に「消費者の心理プロセス」を説明するモデル(設計や測定の“型”は別途必要になりがち)。

  • AARRR:プロダクト主導の成長指標に寄る(特にSaaS/アプリで強い)。

  • RACE:チャネル横断の“活動の管理と測定”に主眼を置く「計画・運用フレーム」。SOSTAC®のような計画手順フレームと併用しやすい。

補足として、RACEは実務フレームである一方、研究でSNS施策を段別に整理する枠組みとして用いられる例もあります(新製品ローンチにおけるソーシャルメディア活用をRACEで整理する等)。

RACE×A/Bテスト:どこから改善するかの優先順位が決まる

RACEで分析すると、A/Bテストを「思いつき」ではなく、成果に効く順番で打てるようになります。なぜなら、事業成果(売上・商談・LTV)は概念的に Reach × Act × Convert × Engage の“掛け算”で決まり、どこか1段が詰まると他段の改善が相殺されるからです。
たとえばConvertが詰まっている状態でReachだけをテストしても、流入増が“漏れる”だけになりがちです。逆に、Act(中間CV)やConvertの摩擦を取れば、同じ流入でも成果が増えるため、学習効率が高くなります。

1) 最初にやること:ボトルネック段を1つに絞る

RACEの各段で「現状KPI」と「目標KPI」を並べ、ギャップが最大で、かつ改善が全体に波及しやすい段を“当面の主戦場”にします。目安は次の通りです。

  • Reachが弱い:そもそも母数が足りず、Act/Convertのテストが回りにくい

  • Actが弱い:流入はあるが、比較・理解・納得が進まず、Convertの改善が頭打ち

  • Convertが弱い:検討はされているのに、申込・購入・商談化の摩擦が大きい

  • Engageが弱い:獲得はできるが、継続購入・アップセル・紹介が伸びない(LTVが低い)

2) 段ごとの「テストテーマ」と「典型の勝ち筋」

A/Bテストの打ち所は段によって変わります。下表のように“段別のテストの型”を持つと、施策が散らかりません。

RACE段テストの狙いテストしやすいテーマ主なKPI(例)具体的なA/B例
Reach良質な流入を増やす検索意図適合、広告訴求、配信面CTR、非指名流入、来訪質見出し/広告文/ターゲティングの比較
Act“次の一歩”を増やす価値提案、証拠(根拠)、導線、UI中間CVR、回遊、登録率ファーストビュー構成、比較表有無、CTA文言
Convert摩擦を潰して成約へ申込フロー、価格提示、安心材料最終CVR、完了率、CPA入力項目削減、ステップ順、保証/FAQ配置
EngageLTVを伸ばすオンボーディング、継続動機、CRM継続率、再購入率、紹介率初回体験メール、リマインド頻度、レコメンド

特に現場で効きやすいのは、Act→Convertの順です。Actが整うと「比較・納得」が進み、Convertのテスト(フォーム最適化等)が“効く状態”になります。

3) 優先順位を機械的に決める「RACE-ICEスコア」

迷いを減らすために、段ごとに次のスコアで順位付けする方法が有効です(ICEはよくある優先度付けの型です)。

  • Impact(インパクト):その段の改善が全体成果にどれだけ効くか

  • Confidence(確信度):仮説の根拠(データ/定性)がどれだけあるか

  • Ease(容易さ):実装・計測・リスクの観点でどれだけ早く回せるか

実務上は、RACEで「詰まり段」を特定したうえで、その段のテスト案をICEで並べ替えると、議論が前に進みます。

4) 失敗しやすい落とし穴(RACE視点の注意)

  • 段をまたいだKPIの混同:Reach改善の施策をConvertで評価すると誤判定になりやすい

  • 計測の不整備:段別KPI(中間CV、完了率、継続率)が取れていないと優先順位がブレる

  • 局所最適の罠:ActのCTRだけ上がってConvertが落ちる等、段間トレードオフが起きうる
    → 対策として、各テストに「主KPI(その段)」と「ガードレールKPI(次段・前段)」をセットで置くと安全です。

5) AIマーケティングへの“さりげない接続”

生成AIは、A/Bテストの“ネタ作り”と“量産”を強力に加速します。
ただし価値が出るのは、RACEでどの段の、どのKPIを動かすためのバリエーションかを明確にしたときです(例:Actなら価値提案の表現差、Convertなら不安除去のFAQ差)。AIで案は増やせますが、優先順位と評価軸はRACEで統制すると、学習が資産化します。

具体例/活用案

1) KPIダッシュボードをRACEで“並べ替える”(B2Bの例)
Smart Insights掲載の事例では、無線通信機器のBearCom Wirelessで、マーケティング・ダッシュボードをRACEの4段に整理し、Reach(流入/認知)→Act(資料DLや滞在などの反応)→Convert(受注/売上)→Engage(メール・リピート・推奨)までを一枚で追えるようにしています。ポイントは「活動量」ではなく“顧客エンゲージメントの進行”に紐づけて指標を置いたことです。

2) 既存の施策群を“段別のジョブ”に分解して抜け漏れを発見(ECの例)
eBayのケーススタディでは、ブランド再定義のためにTVなど伝統的メディアも活用しつつ、モバイル比率の上昇や、在庫を商品軸で整理する構造化データの取り組み(AI/ビッグデータ活用の文脈)に触れています。これをRACEに当てはめると、Reach(認知・想起の再構築)/Act(検索・比較・商品発見の体験)/Convert(モバイルでの購入摩擦)/Engage(継続購入と信頼)という“改善の置き場”が分かれ、部門横断で議論しやすくなります。

3) 「PRACE(Planを明示)」で、AI施策の位置づけを迷子にしない
RACEはPlanを“最初に固定”するほど効きます。目標(例:新規獲得→LTV最大化)と段別KPIを合意し、GA4/CRM/広告を統合したダッシュボードで月次レビューに落とす。Smart Insights自身も、RACEに基づくレポーティング/ダッシュボード化の発想を紹介しています。

よくある誤用(注意)

  • Reachを「インプレッション」だけで管理し、Act(中間CV)を設計しない:結果としてCPAは下がらず、CROの打ち手も出ません。

  • Convertを“最終CVだけ”に固定し、オフライン成約(商談・来店・電話)を除外する:RACEはオンライン/オフライン統合が前提です。

  • Engageを「SNS投稿数」で代替する:本質は継続率・再購入・推奨(紹介)とLTVです。

すぐ使える問い(Killer Question)

  1. Reachの投資配分は正しいか?「非指名流入は増えているのに、指名検索・再訪が伸びない。上流の露出だけ増やして“記憶(想起)”に投資できているか」—短期効率と中期成長、ブランド毀損リスクも点検するため。

  2. Actがボトルネックでは?「流入はあるのに、比較・会員登録・資料DL・見積依頼が弱い。次の一歩を阻む摩擦(情報不足/不信/手間)はどこか」—CRO/コンテンツ/導線改善の優先順位を決めるため。

  3. Engageの定義が甘くないか?「継続率・再購入・紹介を測らず、CPAだけで判断していないか。生成AIのパーソナライズはLTVを上げたのか」—“売った後”の価値と収益性を守るため。

 

参考情報(一次情報中心)

  • Smart Insights「The RACE Framework」

  • DaveChaffey.com 用語集「RACE marketing model」

  • Smart Insights(BearCom Wirelessのダッシュボード事例)

  • Smart Insights(eBay marketing strategy case study)

  • Rautela (2021) ResearchGate掲載論文(RACEを用いたSNS活用整理の例)

 

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