SIPS

Marketing Frameworks

Summary

「ファネル/購買行動モデル」の中でも、SNS上の“共感”を起点に拡散までを捉える枠組みがSIPSです。

一言で言うと、「共感が入口となり、参加と拡散で循環する消費行動モデル」

UGC・コミュニティ・インフルエンサー施策で、購買“以外”の行動もKPI化したいときに使います。


秀逸ポイント

SIPSの強みは、“買わせる”より先に「共感される」ことを入口に置いた点です。ソーシャル上では「共感された情報しか広がりにくい」という前提に立ち、Sympathize→Identify→Participate→Share&Spreadを最短距離で整理しています。
さらに重要なのが、Participate(参加)を「購買に限らない」と定義していること。いいね、リツイート、コメント、コミュニティ参加など“販促への参加”も行動価値として扱えるため、ファネルの谷(購入直前だけ最適化)から脱しやすくなります。
最後に、Share(共有)とSpread(拡散)を分けたことで、「個人の共有」がネットワーク構造で自動的に拡散へ増幅していく
メカニズムを、設計思想として明示できる点が実務的に効きます。


提唱者・発表時期

SIPSは、電通の「サトナオ・オープン・ラボ」が、ソーシャルメディアの普及とスマートフォン普及を背景に、2011年1月31日に発表した生活者消費行動モデル概念です。リーダーは電通の佐藤尚之(通称:さとなお)氏で、社内横断メンバーとともに概念研究として提示されました。
電通は当時、インターネット普及を背景にした
AISAS(2004年〜)を「土台となるモデル」と位置づけつつ、進化したソーシャルメディア視点で生活者行動を深掘りする概念としてSIPSを併置しています(=置き換えではなく補助線)。

SIPSを提唱した佐藤尚之(さとなお)氏は、その後「ファンベース」という考え方を提唱しています。ファンベースは、SNS上の共感や参加・拡散(=SIPSが扱う行動)を“点”で終わらせず、熱量の高いファンとの関係を土台にして中長期で売上や事業価値を高めるという“経営寄りの視点”に接続したものです。書籍『ファンベース』(ちくま新書、2018年刊)で体系化され、2019年には概念普及と支援を目的に「ファンベースカンパニー」も設立されています。

SIPSが「共感→確認→参加→共有・拡散」の行動循環を描くのに対し、ファンベースはその循環を“長く支持され続ける仕組み(中長期の成長)”に翻訳した戦略概念だと捉えると理解しやすいです。


詳細説明

1) SIPSの4段階(定義と含意)

電通の整理では、SIPSは以下の流れです。

  • Sympathize(共感):すべての入口。共感されない情報は広がりにくい。

  • Identify(確認):検索だけでなく、口コミ・レビュー・友人・投稿など「あらゆる手段」で確からしさを確かめる。

  • Participate(参加):購買に限らない。いいね/拡散/コミュニティ参加なども“参加”。

  • Share & Spread(共有・拡散):参加者の共有がネットワークに乗って拡散し、さらに共感を生む循環。

ここでの肝は、「Action(購入)」を独立ステップにせず、参加の一形態として内包している点です。購買“だけ”を最適化すると、ソーシャル上で最も効く「共感→参加→共有」の回路設計が後回しになりがちです。

2) AIDMA / AISASとの違い(比較表)

観点AIDMAAISASSIPS
背景マス広告中心インターネット普及ソーシャルメディア普及
入口Attention(気づき)Attention(気づき)Sympathize(共感)
情報収集記憶→購買Search(検索)Identify(多面的確認)
中核KPI購買・想起検索→購入→共有参加(購買以外も含む)→共有→拡散
直線ファネル直線+共有循環(拡散が次の共感を生む)

電通自身も、AISASを「土台」としつつ、SIPSはソーシャルの視点で深掘りする概念だと説明しています。したがって実務では、検索が強い商材はAISAS、コミュニティ/UGCが効く商材はSIPSのように“併用”が合理的です。

3) 実務での設計(施策・指標の当て方)

SIPS段階生活者の状態施策の例指標例(例示)
Sympathize世界観に共鳴ストーリー、価値観提示、クリエイター起用保存率、好意度、ポジ反応率
Identify本当か確認レビュー整備、FAQ、比較の透明化、第三者の声指名検索、レビュー閲覧、比較ページ滞在
Participate参加したいハッシュタグ企画、ライブ配信、投票、共同制作UGC投稿数、参加率、コメント率
Share&Spread人に薦めるシェア動線、二次創作許諾、紹介インセンティブシェア率、拡散到達、紹介流入

4) AIマーケティングへの“さりげない接続”

SIPSは「共感→確認→参加→拡散」を回すモデルなので、AIは“共感の芽”の探索と、確認コストの低減に効きます。たとえば、生成AI×ソーシャルリスニングで「共感されやすい論点(言い回し・文脈)」を抽出し、FAQや比較表を自動生成してIdentifyを支援する、といった設計です。重要なのは、AIで“盛る”より、根拠提示・透明性・運用ガバナンスで信頼を担保することです(ここが崩れると共感が一瞬で反転します)。


具体例/活用案(SIPS→ファンベース視点で改訂版)

SIPSを「一度の拡散」で終わらせず、佐藤尚之氏の“ファンベース”文脈(中長期で価値を上げる)へ接続するなら、設計の要点は 「拡散の後に、関係を“積み上げる”仕掛けを置く」 ことです。 具体的には、①共感を生む物語(Sympathize)→②不安・疑問の解消(Identify)→③参加の型(Participate:投稿テンプレ/投票/イベント)→④参加者を“可視化して称賛”し、継続参加へ誘導(Share&Spread→次の共感)という循環を作ります。

事例1:LEGO Ideas(ファン参加を製品化へ接続)

ファンがアイデアを投稿し、投票で支持を集め、一定票(1万票)に達すると公式レビュー対象になる仕組みで、参加を「共創」として制度化しています。SIPSのParticipateを“プロダクトの意思決定”にまで昇格させた好例です。

事例2:Harley-Davidson H.O.G.(参加を会員制コミュニティに固定)

オーナー向けの会員組織(チャプター/ラリー等)を用意し、参加を“継続体験”に変換しています。SIPSのShare&Spreadが「仲間内の紹介・同伴」へ繋がりやすく、ファンベース化の典型です。

事例3:資生堂 マジョリカ マジョルカ(ライブ配信×SNS質問×ハッシュタグ参加)

Ustreamライブ配信で質問受付、ハッシュタグ投稿(#mjmake)を番組に反映し、抽選プレゼントも実施。共感→確認→参加→共有を“番組運用”で回す設計が明確です。

事例4:Kroger × TikTok #TransformUrDorm(参加→購買導線まで短絡化)

KrogerはTikTokの“買える”仕組み(Hashtag Challenge Plus)を用い、学生に寮の模様替え動画投稿を促し、ハッシュタグから商品ページへつなげる形で実施しました。TechCrunchはこの仕組みを紹介し、Adweekも「初のブランド活用」と報じています。
またShorty Awardsの記述でも、インフルエンサー起点でUGCを誘発し、チャレンジページにショッパブル要素を持たせた点が示されています。
これはSIPSの「参加」を行動(動画投稿)と購買(ショッピング導線)で一体化した好例で、AIマーケ視点では、投稿内容(UGC)のクラスタリングやクリエイティブ学習でSympathize要因を抽出し、次回の参加設計へ還元できます。


誤用しがちなポイント(注意)

  • 「バズ=SIPS」ではありません。 共感(Sympathize)が弱いまま拡散だけ狙うと、広告臭・押しつけ感で逆回転します(共感が入口という前提を外さない)。

  • Identifyを軽視しない。 SNSで盛り上がっても、比較検討・不安解消ができないと参加が購買や継続に繋がりません(FAQ、レビュー、透明性)。

  • Spreadは“買う”より“設計する”。 違反すれすれのインセンティブやステマは短期で伸びても信頼を毀損します。運用ルール・開示・ガバナンスが必須です。

  • ファンベースは強力ですが、「熱量の高い少数」だけに最適化しすぎると、周辺層(ライト層)を置き去りにして成長が頭打ちになります。小さなコミュニティ運用は有効な一方、設計を誤ると分断を生みます。 そのため、参加導線は“ファン向け深い場”と“ライト向け入口”を二層にし、KPIも「UGC数」だけでなく「再参加率」「紹介流入」「コミュニティ滞在(閲覧・反応)」まで追うのが実務的です。

すぐ使える問い(Killer Question)

  1. 「共感」を、機能・価格ではなく“価値観の一致”で説明できているか?
    理由:ソーシャル上では共感が入口。便益訴求だけだと参加が生まれず、拡散の初速が出ません。

  2. Identify(確認)の摩擦を、ブランド側の都合で増やしていないか?(不安・疑問が放置されていないか)
    理由:確認フェーズが詰まると参加に進まず、UGCもレビューも増えないため、循環が止まります。

  3. Participateを「購入」だけで測っていないか?“参加の型”と“称賛の仕組み”は用意できているか?
    理由:SIPSは購買以外も参加。参加の型があるほどUGCが増え、Share&Spreadが自己増殖します。

参考文献リスト

理論・概念に関する文献

SIPSモデル

  1. 株式会社電通「サトナオ・オープン・ラボ」(2011)「ソーシャルメディアに対応した新しい生活者消費行動モデル概念『SIPS』」ニュースリリース, 2011年1月31日
    https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2011009-0131.pdf

  2. MarkeZine編集部 (2011)「ソーシャルメディアに対応した消費行動モデル『SIPS』発表」MarkeZine, 2011年1月31日
    https://markezine.jp/article/detail/13294

  3. Webma編集部 (2020)「ソーシャルメディアの購買行動モデル『SIPS』とは?AISASとの違いも解説」, 2020年1月10日
    https://webma.xscore.co.jp/study/sips/

AISASモデル

  1. SMMlab編集部 (2013)「『AISAS(アイサス)』とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語をおさらい!」, 2013年3月27日
    https://smmlab.jp/article/what-is-aisas/

  2. MarkeZine編集部 (2023)「AIDMAとAISASの違いや関係性とは?最新の購買行動モデルも」, 2023年11月17日
    https://markezine.jp/article/detail/43461

ファンベース

  1. 佐藤尚之 (2018)『ファンベース 支持され、愛され、長く売れ続けるために』筑摩書房(ちくま新書)
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071279/

  2. 株式会社ファンベースカンパニー公式サイト「会社概要」
    https://www.fanbasecompany.com/company/

  3. 野村ホールディングス株式会社 (2019)「野村ホールディングス、佐藤尚之(さとなお)氏と合弁会社『株式会社ファンベースカンパニー』を5月7日に設立」プレスリリース, 2019年3月28日
    https://www.nomuraholdings.com/jp/company/group/fbc.html

事例に関する文献

資生堂 マジョリカ マジョルカ

  1. MarkeZine編集部 (2011)「銀座から『マジョリカ マジョルカ』のメーク番組をライブ配信」, 2011年6月22日
    https://markezine.jp/article/detail/13959

  2. 銀座経済新聞 (2011)「資生堂『マジョリカ マジョルカ』メーク番組、銀座の施設からユーストリーム配信」, 2011年6月23日
    https://ginza.keizai.biz/headline/1510/

Kroger #TransformUrDorm

  1. Adweek (2019) “Kroger Is Using a New Shoppable Offering on TikTok to Try and Sell Back-to-School Staples”, August 16, 2019
    https://www.adweek.com/brand-marketing/kroger-is-using-a-new-shoppable-offering-on-tiktok-to-try-and-sell-back-to-school-staples/

  2. TechCrunch (2019) “TikTok’s new ‘Hashtag Challenge Plus’ lets video viewers shop for products in the app”, August 19, 2019
    https://techcrunch.com/2019/08/19/tiktoks-new-hashtag-challenge-plus-lets-video-viewers-shop-for-products-in-the-app/

  3. The Shorty Awards “Kroger x TikTok: #TransformUrDorm”
    https://shortyawards.com/12th/kroger-x-tik-tok-transformurdorm-2

  4. eMarketer (2019) “Kroger’s Hashtag Challenge: A Retailer’s Perspective on TikTok”, December 3, 2019
    https://www.emarketer.com/content/kroger-s-hashtag-challenge-a-retailer-s-perspective-on-tiktok

LEGO Ideas

  1. LEGO公式サイト「レゴ® アイデアへのアイデアの提出について」
    https://www.lego.com/ja-jp/service/help-topics/article/submitting-your-idea-to-lego-ideas

  2. LEGO公式ヘルプ “What happens to my product idea after I reach 10,000 supporters?”
    https://www.lego.com/en-lu/service/help-topics/article/what-happens-to-my-product-idea-after-i-reach-10-000-supporters

  3. レゴフィールド (2022)「ファンのデザインを製品化するLEGO IDEAS」, 2022年12月5日
    https://lego.feeld-uni.com/2022/12/05/13/

  4. レゴ(R)ブロック情報サイトSTDS「レゴ(R)アイデア製品化候補一覧:ファンデザインを製品化する企画」
    https://stds.jp/lego-ideas-product-nominee/

Harley-Davidson H.O.G.

  1. Harley-Davidson公式サイト「ハーレーオーナーズグループ(Harley Owners Group)」
    https://www.harley-davidson.com/jp/ja/content/hog.html

  2. ヤングマシン (2020)「ハーレー公式オーナーズイベントH.O.G.の魅力とは?【仲間と走ろう】」, 2020年1月14日
    https://young-machine.com/2020/01/14/60875/

その他の参考事例(記事内で言及)

  1. The ALS Association “The ALS Ice Bucket Challenge”
    https://www.als.org/ibc

  2. Forbes (2014) “The ALS Ice Bucket Challenge Has Raised $100 Million”, August 29, 2014
    https://www.forbes.com/sites/dandiamond/2014/08/29/the-als-ice-bucket-challenge-has-raised-100m-but-its-finally-cooling-off/

  3. Creative Live (2014) “Starbucks Encourages Creativity with White Cup Contest”, May 1, 2014
    https://www.creativelive.com/blog/starbucks-white-cup-contest/

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