Summary
「ファネル/購買行動(Funnel & Consumer Behavior Models)」の中で、AIDA/AIDMA/AISAS/AISCEASは“メディア環境の変化を、購買プロセスの言葉に翻訳する”ための代表的モデルです。
一言で言うと、「認知〜購買〜購買後(共有)までを、どこで何を打つべきかに分解する枠組み」です。
いつ使うか:施策を“認知・検索・比較・購買・共有”のどこに効かせるかを整理し、KPIとコンテンツ設計を揃えたいときに使います。
秀逸ポイント
最大の秀逸さは、4つのモデルが「時代の主戦場(メディア/接点)の変化」をそのまま反映している点です。AIDA/AIDMAはマス広告〜店頭の“片方向”を前提に、注意・関心・欲求・記憶といった心理の連鎖で整理します。一方AISAS/AISCEASは、ネット普及後に顕在化したSearch(検索)とShare(共有)を中心に据え、さらにAISCEASは比較(Comparison)・検討(Examination)を切り出して「高関与・長期検討・BtoB/高単価」の現実に寄せます。
実務上の価値は、モデルを“正しい購買心理の説明”として使うよりも、コンテンツ(記事・LP・動画・レビュー・FAQ)と配信(広告・SEO・SNS)を、購買段階ごとに設計・棚卸しできる点にあります。特にAIマーケの文脈では、検索体験(生成AI検索・レコメンド・チャット接客)が“Search/Comparison/Examination”を圧縮しやすく、どの段階をAIで短縮し、どの段階は人の納得(信頼)で担保するかという設計にも直結します。
提唱者・発表時期
AIDA:E. St. Elmo Lewis(エリアス・セントエルモ・ルイス)により1898年頃に原型が提唱されたとされます。広告・販売コミュニケーションの古典的「階層効果(Hierarchy of Effects)」の代表格です。
AIDMA:AIDAを土台に「Memory(記憶)」を加えたモデル。提唱者・原典は二次情報で揺れがあり、米国の実務書著者Samuel Roland Hall(サミュエル・ローランド・ホール)に帰される説明が広く流通しますが、周辺にはAIDCA(Conviction=確信)など類似式も多く、“何が正統か”は整理が必要です。
AISAS:電通が2004年に提唱した購買行動モデルとして知られます(同時期に商標登録が行われたとする説明もあります)。Attention-Interest-Search-Action-Shareで、検索と共有を組み込んだ点が核です。
AISCEAS:アンヴィコミュニケーションズの望野氏が2005年前後に提唱したとされ、Searchの内側をComparison/Examinationに分解して“比較検討の現場”に寄せたモデルです。
補足(コトラー1.0→2.0→3.0→4.0→5.0との接続):コトラーらは、1.0(プロダクト中心)→2.0(顧客中心)→3.0(人間中心)→4.0(伝統×デジタル)→5.0(テクノロジー×人間性)という“マーケの進化”を提示しています。AIDA/AIDMAは1.0〜2.0のマス/販促と親和性が高く、AISAS/AISCEASは4.0以降のデジタル接点(検索・SNS・レビュー)と整合しやすい、という整理が実務的です。
詳細説明
1) 4モデルの変遷は「メディアの主役交代」を写している
AIDA(Attention→Interest→Desire→Action)は、広告や営業が“注意を取り、関心を育て、欲求を起こし、行動させる”という直線を置きます。19世紀末〜20世紀初頭の印刷広告・対面販売の世界観にフィットし、いわゆる階層効果モデルの代表として引用され続けています。
AIDMA(A→I→D→M→A)は、購買までのタイムラグ(「今は買わないが、覚えておく」)を“Memory”として組み込み、反復接触(リマインド)を前提にします。ただし歴史的にはAIDCA(確信)など近縁モデルが多く、国内流通の説明には混同・省略が含まれることがあるため、モデルを“原典の正しさ”より“使い分けの道具”として扱う姿勢が現実的です。
AISAS(A→I→S→A→S)は、インターネット普及によって「欲求→記憶」よりも先に検索(Search)が入り、購買後に共有(Share)が発生する現象を中心に据えます。電通が2004年に提唱したモデルとして知られ、能動的消費者(自分で調べ、発信する)を前提に設計されています。
AISCEAS(A→I→S→C→E→A→S)は、検索の中身を比較(Comparison)と検討(Examination)に分け、購入意思決定が長い商材(高額・BtoB・機能価値が高い商材)に寄せます。提唱元の説明でも、機能価値が高い商材では検索・比較・検討が厚くなる、という立て付けが強調されています。
2) 比較表:何が違うのか(実務での“使い分け軸”)
| モデル | 中心となる世界観 | 強い商材/状況 | 弱くなりやすい点 |
|---|---|---|---|
| AIDA | 広告・営業が段階を押し上げる(片方向) | 短い導線、LP/営業トーク設計 | 検索・レビュー・SNSの影響を織り込みにくい |
| AIDMA | 反復接触で“記憶”を積む | 日用品・定番・指名買い育成 | “記憶”を過信すると、検索で負ける |
| AISAS | 検索と共有が購買行動の中核 | D2C/EC、SNS×SEO、口コミ影響大 | 比較検討の深さ(稟議・PoC)を粗く扱いがち |
| AISCEAS | 比較・検討を明示(意思決定の長期戦) | 高単価、BtoB、SaaS、家電・不動産など | すべてを段階通りに測ろうとすると運用が重くなる |
(AIDAの起源と位置づけ、AISAS/AISCEASの提唱時期・定義は各出典に基づきます。 )
3) 実務で重要なのは「モデルの正誤」より、設計上の3つの用途
コンテンツの棚卸し:記事・LP・導入事例・比較表・FAQ・レビュー誘導を、どの段階の“詰まり”解消に置くか
KPI設計:Attention=リーチ/想起、Search=指名検索・自然流入、Comparison/Examination=資料請求・デモ・評価、Action=CV、Share=UGC/レビュー
施策の責務分解:広告=Attention/Interest、SEO=Search、比較資料=Comparison、導入事例・第三者評価=Examination、オンボーディング=Shareの促進
4) よくある誤解(=誤用)と、避けるための注意点
誤用①:直線モデルを“現実そのもの”として扱う
実際の購買は往復・脱線・並行が当たり前です。階層効果モデルは直感的ですが、実証面では「厳密な順序の存在」への支持が強くない、という批判も継続しています。したがって、診断や議論の“共通言語”として使い、現場のログ(検索クエリ、回遊、比較ページ閲覧、商談履歴)で補正するのが安全です。誤用②:AISASなのに“Searchに勝つ設計”がない
SNSで話題化(Attention/Interest)しても、検索結果・比較記事・レビューで負けると失速します。AISAS/AISCEASを採るなら、SEO・比較表・FAQ・レビュー戦略が中核です。誤用③:AISCEASを“全部計測”しようとして破綻する
Comparison/Examinationは深い検討行動なので、計測粒度を上げすぎると運用が重くなります。最初は「比較ページ閲覧」「資料DL」「デモ到達」「導入事例閲覧」など代理KPIに落とす方が回ります。
5) AIマーケティングへの“さりげない接続”
生成AIとレコメンドの普及は、購買行動モデルの中でも特にSearch/Comparison/Examinationを変形させます。ユーザーは検索窓ではなく「AIに聞く」ことで、比較表やレビュー要約まで一気に取得します。すると勝負は、
AIが参照しやすい一次情報(公式サイト、仕様、FAQ、構造化データ)
第三者評価(レビュー、導入事例、検証記事)
“納得の根拠”の提示(制約、注意点、選び方)
に移ります。これは、コトラーらが示す「デジタルと人間性の統合(4.0→5.0)」とも整合的で、AIに最適化された情報設計(AIO的観点)がファネル設計そのものになります。
具体例/活用案
1) AISASを“コンテンツ設計”に落とす(SNS→検索→共有まで一気通貫)
研究ベースの例として、TikTokアカウントの投稿戦略をAISASで分解し、Attention/Interestを短尺動画で取り、Searchを促し、Action(問い合わせ等)とShare(拡散)に繋げる、という分析があります。ここで示唆的なのは、SNS投稿が単なる認知ではなく、「検索される前提の“導入”」として設計されている点です(動画内で検索キーワードや比較軸を与える、プロフィール導線を整備する等)。AISASは“5段階の説明”より、**Searchに渡すための前処理(Interestの作り方)**として使うと強いです。
2) AISCEASをBtoB/高単価の意思決定に合わせる(比較・検討を主戦場にする)
AISCEASの提唱説明でも強調される通り、機能価値が高い商品・サービスでは、Searchの後に「比較して、検討して、やっと行動」が発生します。
BtoB(例:SaaS、MAツール、分析基盤)でこれを実装する場合、施策は概ね次のように整理できます。
Comparison(比較):競合比較表、料金・機能一覧、移行チェックリスト、RFP雛形
Examination(検討):導入事例(同業・同規模)、セキュリティ白書、運用体制、PoC/無料トライアル、Q&Aウェビナー
Action(行動):見積依頼→稟議資料テンプレ→契約までの摩擦除去
Share(共有):導入後のコミュニティ、成功事例発信、レビュー依頼
重要なのは、AISCEASを採ると“広告よりコンテンツの品質”に投資配分が寄りやすいことです。特に比較・検討フェーズは、情報が不足すると他社へ流れるリスクが高い、と実務解説でも繰り返し指摘されています。
3) AIDMAは「指名買い」と「反復接触」にまだ効く(ただしSearch時代に補正する)
AIDMAは古典扱いされがちですが、“記憶”が効く商材では今でも実務に残ります。例えば日用品・定番・習慣購買では、反復接触→想起→店頭/ECでの選択が起きやすく、Memoryは設計変数です。
一方で誤りやすいのは、「記憶さえ作れば買う」という過信です。いまは興味が立つと検索され、比較されます。したがってAIDMA運用でも、
指名検索に勝つ(ブランド名+カテゴリでの上位表示)
FAQ/レビュー整備で“比較検討の不安”を潰す
といったAISAS/AISCEAS的な補正が必要です。
4) “AIDAのLP最適化”は、AI時代に「確信(Conviction)」が再浮上する
周辺モデルとしてAIDCA(確信)やAIDCAS(満足まで)などが語られる通り、デジタルでは「欲求」より先に“確信できる根拠”が問われます。
生成AIが比較要約をするほど、ユーザーは「どこが違うのか」「なぜそれが言えるのか」を要求するため、LP/提案書では“Conviction設計(証拠・第三者評価・制約提示)”が重要になります。
すぐ使える問い(Killer Question)
私たちは“Search以降”に勝つ準備があるか?(理由:AISAS/AISCEASは検索・比較・検討が主戦場。認知だけ取っても、比較表・FAQ・レビューで負けると失速するため)
比較検討で負けているのは、機能差ではなく“確信材料の不足”ではないか?(理由:AIDMAの“記憶”より、いまは第三者評価・運用体制・制約条件が意思決定を左右しやすい)
AIが要約・推薦する世界で、参照される一次情報(公式・構造化・FAQ)と、参照される評判(レビュー・事例)は設計できているか?(理由:Search/Comparison/ExaminationがAIで圧縮されるほど、情報の“参照可能性”が競争力になる)
参考文献
支持する主要な証拠源:
- Oxford Reference – AIDA
- EBSCO Research Starters – AIDA model
- 電通報 – Dual AISASで考える戦略
- GMO Research – AISAS
- アンヴィコミュニケーションズ公式 – AISCEASの法則
- 望野和美 – Wikipedia
- 岡山大学学術論文 – 消費者行動モデルの進化

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