Summary
「セグメンテーション(市場細分化)」:ターゲティングと顧客理解(Targeting & Insight)の“出発点”。顧客を“同じニーズ/同じ反応を期待できる単位”に分け、施策の勝率を上げる技法です。
「顧客を、反応が揃う“意味のあるグループ”に切り分ける」
いつ使うか:新規獲得が伸びない/継続率が落ちる/プロダクトが刺さらない――原因を“顧客の違い”として検証したい時。
秀逸ポイント
セグメンテーションの秀逸さは、「同じ広告費・同じ開発リソースでも、当て方を変えるだけで成果が跳ねる」という再現性にあります。市場は“平均”では動きません。購買頻度、重視する便益、価格感度、利用シーン、情報接触チャネルは人によって違い、その違いがCVRやLTVに直結します。セグメントを定義すると、①訴求(メッセージ)②提供物(商品・機能)③価格④チャネル⑤体験(CRM/CS)を、勝てる形に揃えられます。さらに、データドリブンに設計すれば、属人的なペルソナ議論を「検証可能な仮説」に落とし込める点も強力です。また、組織が増えるほど重要なのが“意思決定の共通言語”としての効用です。営業・マーケ・プロダクト・CSが「どの顧客群を、何で勝つか」を同じ粒度で語れ、優先順位(投資配分)とKPI設計がブレにくくなります。
提唱者・発表時期
現代マーケティングにおける「市場を分けて最適化する」というセグメンテーションの考え方は、1956年にWendell R. SmithがJournal of Marketingで発表した論文『Product Differentiation and Market Segmentation as Alternative Marketing Strategies』で体系化された、という位置づけが一般的です。
Smithは当時、製品差別化(Product Differentiation)と市場細分化(Market Segmentation)を“代替的な戦略”として論じ、どちらを選ぶかは市場の異質性と企業の資源制約に依存すると示唆しました。
ただし、背景には独占的競争など「需要は一様ではない」という経済学・マーケ理論の蓄積があり、起源には諸説あります。
詳細説明
セグメンテーション(市場細分化)とは、ターゲット市場を「共通のニーズを持ち、同じマーケティング施策に似た反応をする」小さな集団に分けるプロセスです。
ここで重要なのは“分けること”自体ではなく、「分けた結果、意思決定(誰に・何を・どう届けるか)が変わる」ことです。STP(Segmentation→Targeting→Positioning)では、セグメンテーションは後工程(ターゲティングとポジショニング)の前提になります。
1) 代表的な切り口(軸)
OpenStaxが整理する基本の4軸は、地理・属性・行動・心理です。
地理(Geographic):地域、気候、都市/郊外、商圏、言語
属性(Demographic / B2BならFirmographic):年齢、所得、家族構成、業種、従業員規模
行動(Behavioral):購買頻度、利用シーン、機能利用、価格感度、解約兆候
心理(Psychographic):価値観、ライフスタイル、態度(AIO など)
2) 良いセグメントの条件(ADAMS)
「分析として美しい」だけでは施策に落ちません。OpenStaxは、到達可能(Accessible)・識別可能(Differentiable)・実行可能(Actionable)・測定可能(Measurable)・十分な規模(Substantial)の5条件(ADAMS)を示します。
3) 近い概念との違い(混同しやすい)
| 概念 | 目的 | 典型アウトプット | よくある誤り |
|---|---|---|---|
| セグメンテーション | 市場の“反応差”を構造化 | セグメント定義(条件・規模・特徴) | 切っただけで施策が変わらない |
| ターゲティング | 攻める優先順位を決める | 優先セグメント、投資配分 | “全員ターゲット”に戻る |
| ペルソナ | 具体像でチーム合意を作る | 1〜数名の人物像 | 根拠データがなく物語化 |
| コホート分析 | 時系列で行動変化を見る | 初回月別の継続/売上 | コホート=セグメントだと誤解 |
4) 実務で踏み込むポイント
先に“反応の定義”を置く:CVR、解約、アップセル率など「何の反応差」を説明したいかを決めます。
a priori vs データ駆動:属性で先に区切る(仮説型)か、クラスタリング等で後から見つける(発見型)かを使い分けます。
反証も設計する:細かく切るほど当たり前が増え、過学習(セグメント乱立)で運用不能になりがちです。HBRは“使えるセグメンテーション”の難しさを指摘しています。
5) 限界・対立する見方
セグメンテーションは強力ですが万能ではありません。例えば「細かいターゲティングより、ブランド成長のために広いリーチを取るべき」という実務的議論もあります(エビデンスや文脈依存性には注意が必要)。
具体例/活用案
事例1:Tesco × Clubcard(小売CRMの“セグメント運用”)
TescoはClubcardを軸に、顧客データ→洞察→顧客管理→LTV向上の流れを作り、その中核に顧客セグメンテーション(ライフステージ、価値・ロイヤルティ、ライフスタイル等)を置いたことが示されています。
象徴的なのは、四半期のステートメント送付で“7 million variations of product coupon offers”を運用し、顧客ごとに関連性の高い提案へ寄せた点です。
事例2:Netflix(地理ではなく「嗜好コミュニティ」で分ける)
Netflixは、視聴行動から見える“global communities of interest / taste”を用いて推薦を改善すると説明しています。
属性より行動で切ることで、ホーム画面の出し分けやレコメンド最適化など“プロダクトの仕様”に直結しやすいのがポイントです。
B2Bの実務:属性×役割×意図/行動の「多層セグメント」
B2Bでは、業種・規模(firmographic)に加え、商談金額、役割(意思決定者)、直近の閲覧行動などを組み合わせた条件付きセグメントが機能します。AdobeのReal-Time CDP B2Bの例でも、業界×ページ閲覧×役割でオーディエンスを定義するユースケースが示されています。
“普通のページに出にくい”補足:外部セグメント資産
米国ではClaritas PRIZM Premierのように、世帯をデモグラとライフスタイル等で多数セグメント化し、広告・販促に接続する仕組みも使われています。
VALSも価値観・ライフスタイルを軸にしたサイコグラフィック手法の代表例です。
誤用(やりがち)と対策
属性だけで切って終わる:便益や行動が混ざる。→ 行動(頻度/用途/価格感度)を最低1軸入れる。
“それっぽい群”を作って満足:運用できない。→ ADAMS(到達可能・実行可能…)で足切りする。
増やしすぎる:現場が一括配信に戻る。→ 施策側(オファー/クリエイティブ/チャネル)の自由度から逆算して数を決める。
すぐ使える問い(Killer Question)
KPI(CVR/継続率/LTV)を最も左右する“反応差”は何ですか? その差を、いまのセグメント軸で、行動・購買データから説明・予測できていますか?(できないなら軸変更が最優先)
セグメントごとに「提供物・価格・チャネル・メッセージ」のうち最低1つを、意思決定(予算・開発・配信)とオペレーションで変えられますか?(変えられないなら分けるコストが先に立つ)
そのセグメントはADAMSを満たし、ID連携→配信→計測→学習(更新)まで“月次で回る仕組み”を作れますか?(運用不能な設計は、最終的に形骸化しやすい)
参考文献
- Wendell R. Smith論文(1956) – JSTOR | Sage Journals
- Tesco Clubcard事例 – Tesco PLC公式資料
- OpenStax 4軸 – Principles of Marketing
- OpenStax ADAMS – Essential Factors
- Claritas PRIZM Premier – 公式サイト | Wikipedia
- VALS – Wikipedia | SRI International
- Netflix事例 – Netflix公式ブログ
- HBR記事 – Rediscovering Market Segmentation
- STP分析 – Smart Insights | Wikipedia
- Adobe Real-Time CDP B2B – Adobe Experience League


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