「非定型デジタル」はもう安全地帯じゃない。AIエージェント時代の“マーケ職”を3軸で分解する

Blink & Think

生成AIの議論は、長いあいだ「文章が書ける」「画像が作れる」で止まりがちでした。でも現場の体感は、すでに次のフェーズに入っています。
いま起きているのは、AIが“作る”だけでなく、“やり切る”方向に進んでいることです。調べる、比較する、入力する、申し込む、レポートを作る——こうした“多段のWeb作業”を、AIが画面操作を含めて進める流れが現実になりつつあります。

この変化は、マーケ職にとって重要です。なぜなら、これまで「非定型だから人がやる」とされてきたデジタル業務が、構造的にAIへ移っていくからです。
では、AIでも勝ちにくい仕事はどこに残るのか。職業ランキングではなく、業務工程の性質で考えます。


仮説:AI耐性を決めるのは「専門性」ではなく“責任付きアクション”である

ここで提示したい仮説はこうです。

AIでも勝ちにくいのは「専門性が高い仕事」そのものではない。
①不可逆性 × ②不確実性 × ③説明責任 が乗る“責任付きアクション”が中核にある工程である。

3つの軸を言い換えると、こうなります。

  • 不可逆性:ミスが取り返しのつかない損害(炎上・法令違反・信用失墜・巨額損失)につながる

  • 不確実性:例外が多く、状況が変わり続ける(正解が固定されない)

  • 説明責任:なぜそう判断したかを、社内外に耐える形で説明して背負う必要がある

AIは提案や生成が得意でも、「誰が責任を引き受けるのか」という設計がないと、最後の判断に置きにくい。
この“責任の置き場”こそが、AI時代の境界線になります。


2025年以降の変化:生成AI → エージェント化で「非定型デジタル」が崩れ始めた

2024年ごろまでの自動化は、RPAのように「決まった手順」をなぞるタイプが中心でした。
しかし近年は、AIがブラウザの画面を見て、クリックや入力をしながら、複数ステップのタスクを完了する方向に進んでいます。(OpenAI Operatorは2025年1月リリース、Chrome auto browseは2026年1月発表。)

たとえば、Chromeの自動ブラウズ機能は、比較検討やフォーム入力のような“面倒な多段作業”を代行し、支払い・投稿などの重要操作では人の承認を求める設計が示されています。ここがポイントです。
つまり、AIは「手足」を持ち始めた一方で、責任が重い部分は人に残す。これが現実的な進化の形です。

同様に、ブラウザ上の作業(フォーム記入、注文など)を扱うAIエージェントも登場し、「人が使うUIをAIが使う」ことが前提になりました。
結果として、次のことが起きます。

  • 非定型でも“デジタル完結”の仕事はAIに寄っていく(調査、比較、整形、入力、レポート草案など)

  • 残りやすいのは、責任・例外・合意が絡む工程(止める判断、説明、対人調整)

この前提を踏まえ、マーケ職の工程を分解してみます。


マーケ職を工程分解し、3軸で採点する(実例)

スコアは各1〜5点(高いほど人が握る)。合計が高いほど、AIが強くても「人の責任」が残りやすい工程です。

工程不可逆不確実説明責任合計位置づけ
①リサーチ(市場/競合/一次情報収集)2327AI主導(人が検証)
②施策設計(仮説→戦略→施策案)34411協働(人が選択)
③コピー/クリエイティブ3339協働(人が最終承認)
④運用(広告/MA/配信の改善)43411協働(ガードレール必須)
⑤レポート(集計/可視化/所見草案)2248AI主導(人が解釈)
⑥合意形成(調整/意思決定支援)44513人主導(AIは補助)

①リサーチ:最もAIに寄りやすい

リサーチは「探す→比べる→要約→表にする→根拠を並べる」がデジタル完結です。エージェント化が進むほど、ここはさらにAI側へ寄ります。
人の役割は、出典の信頼性チェック、論点の切り方、そして“何を調べないか”の設計です。リサーチは量よりも、問いの品質で勝敗が決まります。

②施策設計:AIは案を量産、人は評価・選択で差がつく

施策設計は、AIが得意な「アイデア生成」と、人が担うべき「採用/不採用の理由づけ」が同居します。
ここで重要なのは、AIの提案を“便利な案の束”で終わらせず、評価軸(目的・制約・想定リスク・代替案)を明文化することです。評価軸が言語化されるほど、意思決定が速くなります。

③コピー/クリエイティブ:生成はAI、事故を防ぐのは人

コピーはAIが速い。ただし不可逆性が跳ね上がる領域でもあります(誇大表現、法令抵触、炎上、ブランド毀損)。
やり方はシンプルで、AIに「案を作らせる」より、“言ってはいけないこと”と“言い切る条件”を先に渡すほうが安全です。最後は人が承認し、根拠と注記を添える。ここが説明責任のコアです。


P-Maxが示す「運用」の現在地:すでに“任せる”が標準になりつつある

広告運用の領域で「非定型デジタルが崩れている」ことを最も分かりやすく示す例が、Google広告の**Performance Max(P-Max)**です。
P-Maxは、SearchやYouTubeなど複数の広告面を横断し、入札や配信、クリエイティブの組み合わせまでAIが最適化する“目標達成型”の設計です。運用者が手で積み上げてきた調整の多くが、構造的に吸収されていきます。

ここで、マーケ職の「運用」は“微調整”から“設計”へ移ります。P-Max前提で工程を割ると、見え方が変わります。

運用の中の工程(P-Max前提)不可逆不確実説明責任コメント
学習目標の設計(CPA/ROAS、価値、LTV寄せ)445ここを誤ると「最適化されるほど事故る」
計測設計(CV定義、重複、価値、オフライン連携)435学習データはマーケ側の責任になる
アセット供給(画像/動画/コピー、商品情報)333量産はAI、人は品質と禁止表現管理
ガードレール(ブランド除外、URL制御、配信NG)535ブランド毀損は不可逆になりやすい
日々の微調整(入札・面・組合せ)232AIに寄り続ける領域

(※)不可逆/不確実/説明責任のスコアは筆者独自評価。

P-Maxの議論で「ブラックボックス」が問題になりやすいのは自然です。だからこそ近年は、チャネル別の可視化や、検索語句・アセットの洞察、ブランド除外やURL制御といった“責任を置くための機能”が強化されてきました。
ここに、AI時代の本質が出ています。任せるほど、人間の仕事は「ルールを作る」「止める条件を作る」「説明できる形にする」へ移るのです。


実務の次アクション:マーケ職が“残る側”に回るための5ステップ

最後に、明日からできる設計手順をまとめます。ポイントは、AI活用のテクニックではなく、責任の設計です。

1)業務を10〜20工程に分解し、3軸で採点する

「職業」ではなく「工程」で見る。ここがすべての起点です。
合計点が低い工程はAIへ寄せ、高い工程は人が握る前提で設計します。

2)低得点工程は、エージェント前提で“標準化”する

標準化とは、テンプレ化・入力項目の統一・命名規則・出典ルール・チェック項目の固定です。
標準化できるほど、AIは強くなり、人は重要判断に時間を使えます。

3)中得点工程は「AI→人の評価・選択→説明」の型を固定する

会議が長い組織ほどここが効きます。
AIに案を作らせ、人が評価軸で落とし込み、最後に説明責任を果たす——この流れを“手順”として残します。

4)高得点工程は、最初にガードレールを作る(法務・ブランド・セキュリティ)

P-Maxでいえば、ブランド除外、URL制御、配信NG条件、承認フロー、ログの保存などです。
「便利だから回す」ではなく、「事故が起きないから回せる」に変えていきます。

5)KPIではなく“学習データの品質”を点検する

AI最適化が進むほど、成果を左右するのは「目標」と「データ」です。
CV定義、重複、価値付け、オフライン連携、計測の欠損——ここが歪むと、最適化が加速するほどズレます。


まとめ:残るのは「非定型」ではなく「引き受けられる人」

エージェント化で、非定型デジタルの多くはAIに寄っていきます。
そのときマーケ職が強くなる道は2つです。

  • AIに渡せる工程を標準化し、スピードと再現性を取る

  • 責任が重い工程で、評価・選択・説明を引き受けられる設計者になる

「AIに勝つ」ではなく、「AIが強い前提で、責任が置ける仕事を増やす」。
これが、これからのマーケ職の現実的なサバイバル戦略です。


📝 FAQ

Q1: AIエージェントとは?

A: ブラウザを操作して、複数のタブやサイトをまたぐ「多段のWeb作業」を代行するAIシステムです。例えば、OpenAIの「Operator」やChromeの「auto browse」機能があり、情報収集から予約、フォーム入力まで自動で実行できます。従来の生成AI(文章や画像を作る)から、「実際に行動するAI」へと進化したものです。

💡 補足: 2025年以降、ブラウザ操作型のAIエージェントが本格普及し、「非定型デジタル業務」の自動化が現実になりつつあります。


Q2: 責任付きアクションとは?

A: 次の3つの要素を持つ業務のことです:

  1. 不可逆性 – ミスが取り返しのつかない損害(炎上・法令違反・信用失墜)につながる
  2. 不確実性 – 例外が多く、状況が変わり続けるため正解が固定されない
  3. 説明責任 – なぜその判断をしたかを社内外に説明し、責任を負う必要がある

AIが高度化しても、この3要素が強い業務は人間が担い続けることになります。

💡 実務への応用: 自分の業務を3軸(各1〜5点)で採点し、合計点が高い工程ほど「人が握るべき領域」と判断できます。


Q3: P-MAX(Performance Max)とは?

A: GoogleのAI駆動型広告キャンペーンで、Search、YouTube、Displayなど複数の広告面を横断し、入札・配信・クリエイティブの組み合わせまでAIが自動最適化します。従来は運用者が手動で調整していた「日々の微調整」をAIが担当し、人間は以下に専念します:

  • 学習目標の設計(何を最適化するか)
  • ガードレール設定(配信してはいけない領域の指定)
  • 計測設計(正しいデータがAIに渡るか)

💡 ポイント: P-MAXは「運用の自動化」の象徴であり、マーケターの役割が「実行者」から「設計者」へシフトしている現在地を示しています。


Q4: 常にウォッチしておくべきことは?

A: KPIではなく、「学習データの品質」を点検することです。AIは与えられたデータで学習するため、データに偏りやノイズがあると、誤った方向に最適化されます。具体的には:

  • コンバージョンの定義は正しいか
  • 除外すべきセグメント(社内アクセス等)は排除されているか
  • AIが学習に使っているシグナルは適切か

💡 新時代の指標: 「CVR」や「CPA」より、「AIに正しい学びをさせているか」が成果の源泉になります。


Q5: 今後ともゆるぎないスキルとは?

A: 専門知識やツール操作ではなく、「判断と責任を引き受ける力」です。具体的には:

  • 評価・選択する力 – AIが出した複数の選択肢から、最適なものを選び、理由を説明できる
  • ガードレール設計力 – AIの暴走を防ぐ制約条件を設定できる
  • 合意形成力 – 社内外のステークホルダーと合意を取り付けられる

AIは「作業」を代行しますが、「この方向で行く」と決断し、結果に責任を負うのは人間です。

💡 キャリア戦略: 「非定型な作業ができる人」から、「責任の重い判断を引き受けられる人」へのシフトが生き残りの鍵です。


参考文献リスト

カテゴリA: 公的機関・政府資料

経済産業省. (2024, June 28). 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006.html

経済産業省商務情報政策局. (2024). デジタル時代の人材政策に関する検討会 報告書 2024https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/20240628_report.html

U.S. Department of Homeland Security. (2024, November 14). Roles and responsibilities framework for artificial intelligence in critical infrastructurehttps://www.dhs.gov/publication/roles-and-responsibilities-framework-artificial-intelligence-critical-infrastructure

カテゴリB: 企業公式資料・技術ドキュメント

Google. (n.d.). About Performance Max campaigns. Google Ads Help. https://support.google.com/google-ads/answer/10724817

OpenAI. (2025, July 17). Introducing Operatorhttps://openai.com/index/introducing-operator/

Microsoft. (n.d.). Responsible AI principles and approach. Microsoft AI. https://www.microsoft.com/en-us/ai/principles-and-approach

カテゴリC: ニュース記事・業界メディア

CNET Japan編集部. (2026, January 29). Chromeに「自動ブラウズ」機能 Geminiがホテル探しや商品比較を代行. CNET Japan. https://japan.cnet.com/article/35243306/

The Technology Review. (2025). オープンAIもAIエージェント、ブラウザー操作を代行https://www.technologyreview.jp/s/354472/openai-launches-operator-an-agent-that-can-use-a-computer-for-you/

カテゴリD: 学術論文(AI・雇用・マーケティング分野)

Barry, N. (2025). The role of artificial intelligence in the future of work: Insights from the marketing field [Master’s thesis, University of Vaasa]. https://osuva.uwasa.fi/handle/10024/19178

Boulos, M. (2024). The intersection of artificial intelligence and digital marketing: Balancing automation with the human touch—Assessing the effects on productivity, cost, quality, and their implications for employment in the industry (SSRN Working Paper No. 4954621). https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4954621

Chen, W. X., Srinivasan, S., & Zakerinia, S. (2025). Displacement or complementarity?: The labor market impact of generative AI (Harvard Business School Working Paper No. 25-039). https://www.hbs.edu/ris/Publication Files/25-039_05fbec84-1f23-459b-8410-e3cd7ab6c88a.pdf

Coetzer, A., Weilbach, L., Hattingh, M., et al. (2025). The impact of generative AI on creative professionals in marketing: A systematic review and practical framework. In International Conference on Society 5.0 (pp. 83-98). Springer. https://doi.org/10.1007/978-3-031-71412-2_6

Deckker, D., & Sumanasekara, S. (2025). Impact of artificial intelligence (AI) on employment in digital marketing industry in Oman. GSJ, 13(1). https://www.researchgate.net/publication/389089692

Grewal, D., Guha, A., et al. (2025). The future of marketing and marketing educationJournal of Marketing Education, 47(1), 4-23. https://doi.org/10.1177/02734753241269838

Joshi, S. (2025). Agentic generative AI and the future US workforce: Advancing innovation and national competitiveness (SSRN Working Paper No. 5126922). https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=5126922

Lazaroiu, G., & Rogalska, E. (2023). How generative artificial intelligence technologies shape partial job displacement and labor productivity growthOeconomia Copernicana14(4), 1087-1128. https://doi.org/10.24136/oc.2023.033

Lachmann, H., Schneider, T., & Wagner, L. (2025). AI revolution: Evolving skills in marketing agency jobs. In C. Baumgarth (Ed.), Special Issue: Advanced Brand Management IV (pp. 61-78). https://cbaumgarth.net/

López Jiménez, E. A., & Ouariachi, T. (2021). An exploration of the impact of artificial intelligence (AI) and automation for communication professionalsJournal of Information, Communication and Ethics in Society19(2), 249-267. https://doi.org/10.1108/JICES-03-2020-0034

Nartey, J. (2025). AI job displacement analysis (2025-2030) (SSRN Working Paper No. 5316265). https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=5316265

Radić, V., Radić, N., & Marković-Blagojević, M. (2024). Impact of artificial intelligence on jobs from 2024 to 2030. In Employment, Education and Entrepreneurship Conference Proceedings. ResearchGate. https://www.researchgate.net/publication/387271451

Shao, Y., Zope, H., Jiang, Y., Pei, J., Nguyen, D., et al. (2025). Future of work with AI agents: Auditing automation and augmentation potential across the US workforcearXiv preprint arXiv:2506.06576. https://arxiv.org/abs/2506.06576

Tschang, F. T., & Almirall, E. (2021). Artificial intelligence as augmenting automation: Implications for employmentAcademy of Management Perspectives35(4), 642-659. https://doi.org/10.5465/amp.2019.0062

Zubair, S. (2024). AI-driven automation: Transforming workplaces and labor marketsFrontiers in Artificial Intelligence Research1(1), 23-45. https://sprcopen.org/FAIR/article/view/46

カテゴリE: AI技術・ブラウザエージェント研究

Meng, L., Feng, H., Shumailov, I., & Fernandes, E. (2025). cellmate: Sandboxing browser AI agentsarXiv preprint arXiv:2512.12594. https://arxiv.org/abs/2512.12594

Thomas, G., Chan, A. J., Kang, J., Wu, W., et al. (2025). Webgames: Challenging general-purpose web-browsing AI agentsarXiv preprint arXiv:2502.18356. https://arxiv.org/abs/2502.18356

Vardanyan, A. (2025). Building browser agents: Architecture, security, and practical solutionsarXiv preprint arXiv:2511.19477. https://arxiv.org/abs/2511.19477

Yang, Y., Ma, M., Huang, Y., Chai, H., Gong, C., et al. (2025). Agentic web: Weaving the next web with AI agentsarXiv preprint arXiv:2507.21206. https://arxiv.org/abs/2507.21206

Zhou, S., Xu, F. F., Zhu, H., Zhou, X., Lo, R., Sridhar, A., et al. (2023). Webarena: A realistic web environment for building autonomous agentsarXiv preprint arXiv:2307.13854. https://arxiv.org/abs/2307.13854

コメント

タイトルとURLをコピーしました