生成AIの議論は、長いあいだ「文章が書ける」「画像が作れる」で止まりがちでした。でも現場の体感は、すでに次のフェーズに入っています。
いま起きているのは、AIが“作る”だけでなく、“やり切る”方向に進んでいることです。調べる、比較する、入力する、申し込む、レポートを作る——こうした“多段のWeb作業”を、AIが画面操作を含めて進める流れが現実になりつつあります。
この変化は、マーケ職にとって重要です。なぜなら、これまで「非定型だから人がやる」とされてきたデジタル業務が、構造的にAIへ移っていくからです。
では、AIでも勝ちにくい仕事はどこに残るのか。職業ランキングではなく、業務工程の性質で考えます。
仮説:AI耐性を決めるのは「専門性」ではなく“責任付きアクション”である
ここで提示したい仮説はこうです。
AIでも勝ちにくいのは「専門性が高い仕事」そのものではない。
①不可逆性 × ②不確実性 × ③説明責任 が乗る“責任付きアクション”が中核にある工程である。
3つの軸を言い換えると、こうなります。
不可逆性:ミスが取り返しのつかない損害(炎上・法令違反・信用失墜・巨額損失)につながる
不確実性:例外が多く、状況が変わり続ける(正解が固定されない)
説明責任:なぜそう判断したかを、社内外に耐える形で説明して背負う必要がある
AIは提案や生成が得意でも、「誰が責任を引き受けるのか」という設計がないと、最後の判断に置きにくい。
この“責任の置き場”こそが、AI時代の境界線になります。
2025年以降の変化:生成AI → エージェント化で「非定型デジタル」が崩れ始めた
2024年ごろまでの自動化は、RPAのように「決まった手順」をなぞるタイプが中心でした。
しかし近年は、AIがブラウザの画面を見て、クリックや入力をしながら、複数ステップのタスクを完了する方向に進んでいます。(OpenAI Operatorは2025年1月リリース、Chrome auto browseは2026年1月発表。)
たとえば、Chromeの自動ブラウズ機能は、比較検討やフォーム入力のような“面倒な多段作業”を代行し、支払い・投稿などの重要操作では人の承認を求める設計が示されています。ここがポイントです。
つまり、AIは「手足」を持ち始めた一方で、責任が重い部分は人に残す。これが現実的な進化の形です。
同様に、ブラウザ上の作業(フォーム記入、注文など)を扱うAIエージェントも登場し、「人が使うUIをAIが使う」ことが前提になりました。
結果として、次のことが起きます。
非定型でも“デジタル完結”の仕事はAIに寄っていく(調査、比較、整形、入力、レポート草案など)
残りやすいのは、責任・例外・合意が絡む工程(止める判断、説明、対人調整)
この前提を踏まえ、マーケ職の工程を分解してみます。
マーケ職を工程分解し、3軸で採点する(実例)
スコアは各1〜5点(高いほど人が握る)。合計が高いほど、AIが強くても「人の責任」が残りやすい工程です。
| 工程 | 不可逆 | 不確実 | 説明責任 | 合計 | 位置づけ |
|---|---|---|---|---|---|
| ①リサーチ(市場/競合/一次情報収集) | 2 | 3 | 2 | 7 | AI主導(人が検証) |
| ②施策設計(仮説→戦略→施策案) | 3 | 4 | 4 | 11 | 協働(人が選択) |
| ③コピー/クリエイティブ | 3 | 3 | 3 | 9 | 協働(人が最終承認) |
| ④運用(広告/MA/配信の改善) | 4 | 3 | 4 | 11 | 協働(ガードレール必須) |
| ⑤レポート(集計/可視化/所見草案) | 2 | 2 | 4 | 8 | AI主導(人が解釈) |
| ⑥合意形成(調整/意思決定支援) | 4 | 4 | 5 | 13 | 人主導(AIは補助) |
①リサーチ:最もAIに寄りやすい
リサーチは「探す→比べる→要約→表にする→根拠を並べる」がデジタル完結です。エージェント化が進むほど、ここはさらにAI側へ寄ります。
人の役割は、出典の信頼性チェック、論点の切り方、そして“何を調べないか”の設計です。リサーチは量よりも、問いの品質で勝敗が決まります。
②施策設計:AIは案を量産、人は評価・選択で差がつく
施策設計は、AIが得意な「アイデア生成」と、人が担うべき「採用/不採用の理由づけ」が同居します。
ここで重要なのは、AIの提案を“便利な案の束”で終わらせず、評価軸(目的・制約・想定リスク・代替案)を明文化することです。評価軸が言語化されるほど、意思決定が速くなります。
③コピー/クリエイティブ:生成はAI、事故を防ぐのは人
コピーはAIが速い。ただし不可逆性が跳ね上がる領域でもあります(誇大表現、法令抵触、炎上、ブランド毀損)。
やり方はシンプルで、AIに「案を作らせる」より、“言ってはいけないこと”と“言い切る条件”を先に渡すほうが安全です。最後は人が承認し、根拠と注記を添える。ここが説明責任のコアです。
P-Maxが示す「運用」の現在地:すでに“任せる”が標準になりつつある
広告運用の領域で「非定型デジタルが崩れている」ことを最も分かりやすく示す例が、Google広告の**Performance Max(P-Max)**です。
P-Maxは、SearchやYouTubeなど複数の広告面を横断し、入札や配信、クリエイティブの組み合わせまでAIが最適化する“目標達成型”の設計です。運用者が手で積み上げてきた調整の多くが、構造的に吸収されていきます。
ここで、マーケ職の「運用」は“微調整”から“設計”へ移ります。P-Max前提で工程を割ると、見え方が変わります。
| 運用の中の工程(P-Max前提) | 不可逆 | 不確実 | 説明責任 | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 学習目標の設計(CPA/ROAS、価値、LTV寄せ) | 4 | 4 | 5 | ここを誤ると「最適化されるほど事故る」 |
| 計測設計(CV定義、重複、価値、オフライン連携) | 4 | 3 | 5 | 学習データはマーケ側の責任になる |
| アセット供給(画像/動画/コピー、商品情報) | 3 | 3 | 3 | 量産はAI、人は品質と禁止表現管理 |
| ガードレール(ブランド除外、URL制御、配信NG) | 5 | 3 | 5 | ブランド毀損は不可逆になりやすい |
| 日々の微調整(入札・面・組合せ) | 2 | 3 | 2 | AIに寄り続ける領域 |
(※)不可逆/不確実/説明責任のスコアは筆者独自評価。
P-Maxの議論で「ブラックボックス」が問題になりやすいのは自然です。だからこそ近年は、チャネル別の可視化や、検索語句・アセットの洞察、ブランド除外やURL制御といった“責任を置くための機能”が強化されてきました。
ここに、AI時代の本質が出ています。任せるほど、人間の仕事は「ルールを作る」「止める条件を作る」「説明できる形にする」へ移るのです。
実務の次アクション:マーケ職が“残る側”に回るための5ステップ
最後に、明日からできる設計手順をまとめます。ポイントは、AI活用のテクニックではなく、責任の設計です。
1)業務を10〜20工程に分解し、3軸で採点する
「職業」ではなく「工程」で見る。ここがすべての起点です。
合計点が低い工程はAIへ寄せ、高い工程は人が握る前提で設計します。
2)低得点工程は、エージェント前提で“標準化”する
標準化とは、テンプレ化・入力項目の統一・命名規則・出典ルール・チェック項目の固定です。
標準化できるほど、AIは強くなり、人は重要判断に時間を使えます。
3)中得点工程は「AI→人の評価・選択→説明」の型を固定する
会議が長い組織ほどここが効きます。
AIに案を作らせ、人が評価軸で落とし込み、最後に説明責任を果たす——この流れを“手順”として残します。
4)高得点工程は、最初にガードレールを作る(法務・ブランド・セキュリティ)
P-Maxでいえば、ブランド除外、URL制御、配信NG条件、承認フロー、ログの保存などです。
「便利だから回す」ではなく、「事故が起きないから回せる」に変えていきます。
5)KPIではなく“学習データの品質”を点検する
AI最適化が進むほど、成果を左右するのは「目標」と「データ」です。
CV定義、重複、価値付け、オフライン連携、計測の欠損——ここが歪むと、最適化が加速するほどズレます。
まとめ:残るのは「非定型」ではなく「引き受けられる人」
エージェント化で、非定型デジタルの多くはAIに寄っていきます。
そのときマーケ職が強くなる道は2つです。
AIに渡せる工程を標準化し、スピードと再現性を取る
責任が重い工程で、評価・選択・説明を引き受けられる設計者になる
「AIに勝つ」ではなく、「AIが強い前提で、責任が置ける仕事を増やす」。
これが、これからのマーケ職の現実的なサバイバル戦略です。
📝 FAQ
Q1: AIエージェントとは?
A: ブラウザを操作して、複数のタブやサイトをまたぐ「多段のWeb作業」を代行するAIシステムです。例えば、OpenAIの「Operator」やChromeの「auto browse」機能があり、情報収集から予約、フォーム入力まで自動で実行できます。従来の生成AI(文章や画像を作る)から、「実際に行動するAI」へと進化したものです。
💡 補足: 2025年以降、ブラウザ操作型のAIエージェントが本格普及し、「非定型デジタル業務」の自動化が現実になりつつあります。
Q2: 責任付きアクションとは?
A: 次の3つの要素を持つ業務のことです:
- 不可逆性 – ミスが取り返しのつかない損害(炎上・法令違反・信用失墜)につながる
- 不確実性 – 例外が多く、状況が変わり続けるため正解が固定されない
- 説明責任 – なぜその判断をしたかを社内外に説明し、責任を負う必要がある
AIが高度化しても、この3要素が強い業務は人間が担い続けることになります。
💡 実務への応用: 自分の業務を3軸(各1〜5点)で採点し、合計点が高い工程ほど「人が握るべき領域」と判断できます。
Q3: P-MAX(Performance Max)とは?
A: GoogleのAI駆動型広告キャンペーンで、Search、YouTube、Displayなど複数の広告面を横断し、入札・配信・クリエイティブの組み合わせまでAIが自動最適化します。従来は運用者が手動で調整していた「日々の微調整」をAIが担当し、人間は以下に専念します:
- 学習目標の設計(何を最適化するか)
- ガードレール設定(配信してはいけない領域の指定)
- 計測設計(正しいデータがAIに渡るか)
💡 ポイント: P-MAXは「運用の自動化」の象徴であり、マーケターの役割が「実行者」から「設計者」へシフトしている現在地を示しています。
Q4: 常にウォッチしておくべきことは?
A: KPIではなく、「学習データの品質」を点検することです。AIは与えられたデータで学習するため、データに偏りやノイズがあると、誤った方向に最適化されます。具体的には:
- コンバージョンの定義は正しいか
- 除外すべきセグメント(社内アクセス等)は排除されているか
- AIが学習に使っているシグナルは適切か
💡 新時代の指標: 「CVR」や「CPA」より、「AIに正しい学びをさせているか」が成果の源泉になります。
Q5: 今後ともゆるぎないスキルとは?
A: 専門知識やツール操作ではなく、「判断と責任を引き受ける力」です。具体的には:
- 評価・選択する力 – AIが出した複数の選択肢から、最適なものを選び、理由を説明できる
- ガードレール設計力 – AIの暴走を防ぐ制約条件を設定できる
- 合意形成力 – 社内外のステークホルダーと合意を取り付けられる
AIは「作業」を代行しますが、「この方向で行く」と決断し、結果に責任を負うのは人間です。
💡 キャリア戦略: 「非定型な作業ができる人」から、「責任の重い判断を引き受けられる人」へのシフトが生き残りの鍵です。
参考文献リスト
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カテゴリC: ニュース記事・業界メディア
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カテゴリD: 学術論文(AI・雇用・マーケティング分野)
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