Summary
「組織・人事・チーム」の中でも、“忙しさ”が成果を偽装しやすい局面を見抜くための原理です。
ひとことで言うと「締切が先だと、仕事は“重く・長く・丁寧っぽく”なって締切日にちょうど終わる」
使うタイミング:計画が長引き、残業や会議が増えているのに、アウトプットが増えないとき。
秀逸ポイント
努力ではなく「設計」の問題に切り替えられる点が秀逸です。本人の怠慢を責めず、期限・粒度・裁量・評価指標(成果か作業量か)を見直す議論に転換できます。
「仕事量が増えたから人が増える」は直感ですが、実際には役割増殖・承認増殖・調整増殖が起き、仕事が膨張して見える——この“見かけの忙しさ”を言語化できます。
マーケ領域では、生成AIや分析で「改善案が無限に出る」ため、“もっと良く”が永遠に続く罠が増えます。パーキンソンの法則は、AIマーケティングの運用設計(時間・予算・評価の上限設定)に直結します。
提唱者・発表時期
提唱者は歴史学者の C. ノースコート・パーキンソン。1950年代にシンガポールで マラヤ大学 の教授職にあった時期の観察を背景に、行政組織・官僚制の“増殖”を皮肉と統計を交えて定式化しました。
初出は The Economist(1955年のエッセイ)とされ、その後1958年に書籍化されています。
詳細説明
パーキンソンの法則は、狭義には「期限が長いほど、仕事は複雑化・肥大化してその期限を使い切る」という観察です。原典では “WORK EXPANDS so as to fill the time available for its completion.” と端的に述べられています。
ただし射程は「個人の仕事術」より広く、組織が自己増殖するメカニズムまで含みます。とくに公務員(civil servants)を例に、「仕事量と職員数は必ずしも連動しない」とし、増殖を生む動機として
(1) 部下は増やしたい(ライバルは増やしたくない)、(2) 互いに仕事を作り合う
を挙げています。
さらに彼は、行政組織の増員ペースを“だいたいこの範囲に収まる”とする数式モデルまで提示しました(変数定義つき)。
ここで重要なのは数式の正確さというより、「増えるべくして増える」構造要因を可視化した点です。現代の企業組織でも、稟議・承認・報告・会議・調整が増えると、実務のスループットが上がらずに“運用負債”が積み上がります。
関連用語との違いも押さえると、使いどころがブレません。
| 概念 | 主張(ざっくり) | 現場での兆候 | 対策の方向 |
|---|---|---|---|
| パーキンソンの法則 | 期限や余白があるほど仕事が膨張 | 締切前に急に忙しくなる/会議・承認が増える | タイムボックス、定義済みの完成条件 |
| ピーターの法則 | 人は無能になるレベルまで昇進しがち | 昇進後に成果が落ちる | 役割設計、専門職トラック |
| ホフスタッターの法則 | 計画は見積もりより遅れがち | 楽観見積もりの常態化 | バッファ設計、リスク管理 |
| (混同注意)パーキンソンの「些末さ」の法則 | 重要度が低い論点ほど議論が長い | 小さい仕様で延々揉める | 意思決定ルール、情報の事前配布 |
マーケ・業務設計の観点では、次の2つが特に効きます。
時間の上限が“品質の上限”を決める:時間を与えるほど、精緻化・追加分析・追加レビューが起きやすい。
予算も膨張する:彼は別の文脈で「支出は収入に合わせて増える(しばしば超える)」とも述べています。
給料が上がっても貯蓄が増えない、部署予算が増えてもROIが上がらない——は“意志の弱さ”だけではなく、配分ルールの問題になりがちです。
具体例/活用案
1) マーケ施策の“締切”を「カレンダー」ではなく「成果物」で区切る
例:LP改善を「2週間でAB案を出す」ではなく、
「2週間で“勝ち筋仮説→必要データ→実装→検証→学び”までを1周」と定義します。
期限があるだけだと、資料化・会議化して膨張します。完成条件(Definition of Done)を成果物ベースにすると、膨張が止まります。
2) タイムボックスを“制度”として埋め込む(Scrumの発想)
スクラムではスプリントや各イベントが明確にタイムボックス化され、長さにも上限があります。
マーケチームでも「毎週月曜に仕込み→金曜に出す」などの短い周期を固定すると、
追加調査の誘惑
承認待ちの長期化
“もっと良く”の無限ループ
を構造的に抑えられます。
3) AIマーケティングで起きがちな「探索の無限化」を止める
生成AIのコピー案、セグメント切り、クリエイティブ案、特徴量追加…は際限がありません。
そこで「探索予算」を決めます:
時間予算:プロンプト改善は90分で打ち切り
コスト予算:推論コスト上限、外部API上限
評価予算:指標は最大3つ(例:CVR/CPA/継続率)
この“上限”がないと、最適化が自己目的化し、残業が増えて「忙しいのに伸びない」が起きます。
4) 予算の膨張(給料・部署費)にはゼロベースで“使途を再正当化”
「支出は収入に合わせて増える」傾向に対しては、ゼロベース予算(ZBB)の考え方が効きます。ZBBは“前年踏襲ではなく、ゼロから全支出を正当化する”予算策定として定義されています。
給料が上がっても貯蓄が増えない個人でも、マーケ予算が増えても成果が伸びない組織でも、**“余ったら貯める”ではなく“先に配分する”**が効きます。
5) 「嘘」が混ざる典型的な誤用(注意)
「締切を短くすれば何でも速くなる」:短すぎる期限は品質事故・燃え尽き・隠れ残業を誘発します。目的は短縮ではなく、膨張を防ぐ適正な上限です。
残業時間の“水増し/見せ方”に流れる:忙しさが評価される設計だと、成果より作業量が強調され、(悪意がなくても)報告が誇張されやすくなります。対策は“時間”ではなく“アウトカム”評価へ。
公務員/官僚制批判の万能ワード化:原典は公務員増殖も扱いますが、個別組織の事情(法制度・ミッション・監査要件)を無視して断罪するのは雑です。原典も「政治的価値判断ではない」と留保しています。
6) 「全部使う」の正体は、4つの“埋め方”
「許される時間は全部使う?」の中身を分解するとこうです。
完璧主義が混ざる
「もっといい表現」「もう1回検算」などで品質を上げにいくスコープが増える
ついで作業(追加調査、別案、体裁調整)が増殖調整が増える
レビュー・承認・相談が増えて、実作業時間が削られる優先順位が下がる
締切が遠いと先送りされ、結局ギリギリに詰め込む
よくある質問(FAQ)
Q1: パーキンソンの法則は科学的に証明されていますか?
A: 心理学実験(Bryan & Locke, 1967)では部分的に支持されていますが、 普遍的な科学法則ではなく、状況に応じた経験則です。
Q2: パーキンソン病との関係は?
A: 全く無関係です。パーキンソン病はジェームズ・パーキンソン医師が 発見した神経疾患で、法則の提唱者とは別人です。
Q3: すべての仕事に当てはまりますか?
A: 緊急性が高いタスクや物理的制約がある場合は当てはまりにくいです。 主にスケジュール管理に裁量がある知識労働に有効です。
Q4: 第一法則と第二法則の違いは?
A: 第一法則は「時間」、第二法則は「お金」の膨張について述べています。 どちらも「利用可能なリソースは使い切られる」という共通原理です。
Q5: タイムボックスとは何ですか?
A: タスクに固定された時間枠を設定し、その時間内で完了させる手法です。 Scrumのスプリント(2-4週間)が代表例です。
すぐ使える問い(Killer Question)
この仕事は「期限」ではなく「完成条件」が定義されていますか? 未定義なら、改善・追加・承認が増えて膨張し、残業を呼び込みます。
“忙しさ”の内訳は、価値創出と調整・報告で何割ですか? 調整が増えているなら、増員より先に仕組み(権限/承認/会議)を疑うべきです。
AI/分析の探索に上限(時間・コスト・指標数)がありますか? 上限がない最適化は終わらず、成果より「もっと良く」が目的化します。


コメント