Summary
ターゲティングと顧客理解の文脈で、顧客の“満足の非対称性”を捉えて要件を分類するフレームです。
ひとことで言うと「満足を上げる要件と、不満を防ぐ要件は別物」。
新機能・UI改善・サービス設計で、VoC(アンケート)から開発/施策の優先順位を決めたい時に使います。
秀逸ポイント
Kanoモデルの強みは、「重要度が高い=満足が上がる」とは限らない点を、構造として可視化できることです。満たして当然の“当たり前品質(Must-be)”は改善しても満足が伸びにくい一方、“魅力的品質(Attractive)”は満たすと一気に推奨や愛着を生みます。さらに“一元的品質(One-dimensional)”は競争軸になりやすく、ここを誤ると投資配分がブレます。つまりKanoは、品質管理の文脈(欠陥を潰す)と、プロダクト開発の文脈(差別化を作る)を同じアンケート設計で接続できる「優先順位の翻訳機」です。
提唱者・発表時期
提唱者は狩野紀昭(Noriaki Kano)教授で、同僚の瀬楽信彦・高橋文夫・辻新一らとともに、品質属性が顧客満足へ与える影響を「当たり前/一元的/魅力的」などに分類する理論と、その測定法(Kano質問紙)を提示しました。基礎となる考え方は、満足と不満が同一直線上にないという発想で、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論(満足要因と不満要因が異なる)からの影響も指摘されています。主要な整理は1980年代前半に学会発表・論文化され、1984年の論文が代表的な起点として引用されます。
詳細説明
1) 何を解くモデルか:満足は「線形」ではない
従来の重要度調査は「良くすれば満足が上がる(線形)」を前提にしがちです。しかし現実には、満たして当然の要件を強化しても“普通”の評価に留まり、逆に「想定外の嬉しさ」が推奨や熱量を生みます。Kanoモデルはこの非対称性を前提に、要件をタイプ分けして投資判断を変えます。
2) 6分類(実務で使う基本セット)
| 分類 | 別名(よくある呼び方) | 満たした時 | 欠けた時 | 施策上の扱い |
|---|---|---|---|---|
| Must-be | 当たり前/Basic | 満足は伸びにくい | 強い不満 | まず欠陥を潰す(品質管理) |
| One-dimensional | 性能/Performance | 満足が比例して上がる | 不満が比例して増える | 競争軸。KPIで改善 |
| Attractive | 魅力/Delighter | 大きく満足が上がる | 不満は生まれにくい | 差別化。刺さる層に集中投資 |
| Indifferent | 無関心 | 影響小 | 影響小 | やらない根拠(コスト削減) |
| Reverse | 逆要因 | 満足が下がる場合あり | 逆に好まれる場合あり | セグメント分岐のサイン |
| Questionable | 疑問(回答矛盾) | — | — | 設問や理解不足を疑う |
| この「Reverse」「Questionable」は、調査のノイズや嗜好差を扱うための実務上の補助カテゴリとして重要です。 |
3) 測り方:Kano質問紙(機能/逆機能の2問セット)
各要件について、(a) それが“ある”場合(functional)と、(b) “ない”場合(dysfunctional)の2問を置き、回答の組み合わせを評価表で分類します。これにより、本人が「重要だ」と自覚していない潜在ニーズ(特にAttractive)を拾いやすくなります。
4) 関連用語との違い(混同しやすいポイント)
MoSCoW / RICE:優先順位付けの“計算器”。Kanoは「満足の形」を分類して、計算の前提を変える。
NPS / CSAT:結果指標。Kanoは「どの要件が結果を動かすか」の因果仮説づくり。
QFD(品質機能展開):VoC→設計へ落とす展開手法。KanoはVoC側の“重みづけ”を賢くするために併用されることが多い。
※注意:要件は時間とともに「魅力→性能→当たり前」へ移る(陳腐化)ため、定期的な再調査が前提です(一般にそう扱われます)。
具体例/活用案
事例1:スキー製品での大規模調査(>1500人)
Kano手法の実践例として、スキー業界で1500人超の顧客調査を行い、要件抽出→質問紙設計→評価・解釈→開発判断に繋げる手順を示した事例が報告されています。特に示唆的なのは、顧客インタビューだけでは言語化されにくい“魅力的品質”を、設計された質問で拾う点です。これは、プロダクト開発で「声が大きい要望」ではなく「買う理由/推す理由」を拾うための設計として参考になります。
事例2:企業の開発現場での適用(Bose/BBN/NASAの文脈)
品質マネジメント領域では、複数企業の適用経験をまとめた特集号があり、Boseの開発チームがVoC整理後にKano分類を使って要件を運用可能なメトリクスへ落とし込む、といった実務の流れが紹介されています。また、NASAのプログラム要件にKano手法を適用した研究も引用されます。ここから得られる教訓は「分類は“順位”ではない」こと、そしてQ(疑問)やI(無関心)を含めて調査設計の精度を上げることです。
AIマーケティングへの自然な接続(実務の型)
生成AIで自由記述VoCを要約→要件候補を作る(“要望”ではなく“困りごと”単位に正規化)
Kanoアンケートで分類→Must-beは品質KPI、Attractiveは訴求・オンボーディング・パーソナライズ施策へ
セグメント別にReverseを監視(上級者ほど“機能過多”を嫌う等)
この流れにすると、AIは“探索と整理”、Kanoは“意思決定の型”として役割分担できます。
よくある誤用(注意喚起)
「Attractive=重要度が低い」と誤解:重要度質問だけでは拾えないからAttractiveです。
Must-beを磨けば差別化できると思う:欠陥を潰す効果は大きいが、満足の天井は上げにくい。
全顧客で一枚岩に分類する:Reverseが出たら、ターゲットの切り方が課題です。
すぐ使える問い(Killer Question)
当たり前品質に、どれだけ“成長投資”を置いているか?
不満ゼロは土台ですが、そこに投資し続けても伸びが鈍化します。Must-beの“維持コスト”と、Attractiveの“差別化投資”を分けて見ていますか。顧客は「欲しい」と言っていないのに、推奨が増える体験は何か?
Attractiveは言語化されにくい前提があります。自由記述や行動ログから仮説を立て、Kano設問で検証する設計になっていますか。Reverseが出た要件を、セグメント戦略に翻訳できているか?
“機能追加”が一部には不満になるなら、ターゲットの再定義や出し分け(プラン/UI)を検討すべきサインです。放置すると離脱やブランド毀損に繋がります。
参考文献リスト
原著論文
狩野紀昭、瀬楽信彦、高橋文夫、辻新一(1984)「魅力的品質と当り前品質」『品質』第14巻第2号、147-156頁、日本品質管理学会
- CiNii Research
- 解説: Kanoモデルの原著論文。顧客満足の非対称性と品質要素の分類理論を初めて体系化した。
Kano, Noriaki; Seraku, Nobuhiku; Takahashi, Fumio; Tsuji, Shinichi (April 1984). “Attractive quality and must-be quality”. Journal of the Japanese Society for Quality Control (in Japanese), 14(2): 39-48.
- 上記論文の英語表記
主要な解説文献・レビュー論文
Sauerwein, Elmar; Bailom, Franz; Matzler, Kurt; Hinterhuber, Hans H. (1996). “The Kano Model: How to Delight Your Customers”. Preprints Volume I of the IX. International Working Seminar on Production Economics, Innsbruck/Igls/Austria, February 19-23, 1996, pp. 313-327.
- 解説: スキー産業における1500人以上の顧客調査を通じて、Kanoモデルの実践的適用方法を詳細に示した重要な研究。
Matzler, Kurt; Hinterhuber, Hans H. (1998). “How to make product development projects more successful by integrating Kano’s model of customer satisfaction into quality function deployment”. Technovation, 18(1), 25-38.
- Kanoモデルと品質機能展開(QFD)の統合について論じた論文。
実務適用事例
- Lee, Mark C.; Newcomb, John F. (1997). “Applying the Kano Methodology to Meet Customer Requirements: NASA’s Microgravity Science Program”. Quality Management Journal, 4(3), 95-106.
- Taylor & Francis Online
- 解説: NASAの微小重力科学プログラムにおけるKanoモデルの適用事例。政府機関における初の試みとして重要。
理論的背景
- Herzberg, Frederick; Mausner, Bernard; Snyderman, Barbara B. (1959). The Motivation to Work. New York: John Wiley & Sons.
- 解説: 二要因理論(動機づけ要因と衛生要因)を提唱。Kanoモデルの理論的基礎となった。
百科事典・信頼できるオンライン資料
Wikipedia日本語版「狩野モデル」
- https://ja.wikipedia.org/wiki/狩野モデル
- Kanoモデルの概要、歴史、分類、測定方法を日本語で解説。
Wikipedia英語版 “Kano model”
- https://en.wikipedia.org/wiki/Kano_model
- 国際的な視点からKanoモデルを解説。品質カテゴリーの詳細な説明を含む。
microTOOL “What Is the Kano Model?”
- https://www.microtool.de/en/knowledge-base/what-is-the-kano-model/
- ハーズバーグ理論とKanoモデルの対応関係を明確に説明。
レビュー論文
Löfgren, Martin; Witell, Lars (2008). “Two decades of using Kano’s theory of attractive quality: a literature review”. The Quality Management Journal, 15(1), 59-75.
- 1984年から2006年までのKanoモデル研究をレビューした包括的論文。
Berger, Charles; Blauth, Robert; Boger, David; Bolster, Christopher; Burchill, Gary; DuMouchel, William; Pouliot, Fred; Richter, Rainer; Rubinoff, Allan; Shen, Diane; Timko, Mike; Walden, David (1993). “Kano’s Methods for Understanding Customer-defined Quality”. Center for Quality Management Journal, 2(4), 3-35.
- Kanoモデルの方法論を詳細に解説した重要文献。
その他の有用なリソース
Qualtrics “Kano Analysis: the Kano Model Explained”
- https://www.qualtrics.com/articles/strategy-research/kano-analysis/
- Kano分析の実践的な解説とツールの紹介。
ProductPlan “What is the Kano Model?”
- https://www.productplan.com/glossary/kano-model/
- プロダクトマネジメントの視点からKanoモデルを解説。
The Decision Lab “The Kano Model”
- https://thedecisionlab.com/reference-guide/design/kano-model
- 行動科学の視点からKanoモデルを解説。
ASQ (American Society for Quality) “Kano Model”
- https://asq.org/quality-resources/kano-model
- 品質管理の専門機関によるKanoモデルの解説。


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