Summary
位置づけ:市場・競争の診断(Strategy & Market Diagnosis)で、製品・事業だけでなく施策や能力まで含め、資源配分の全体像を“見える化”するポートフォリオ分析です。
「限られた資源を“伸ばす・稼ぐ・試す・畳む”に配分する地図」。
いつ使うか:新規投資・広告配分・SKU整理に加え、組織の採用・育成・配置(組織作り)の優先順位を関係者で一気に揃えたい時。
秀逸ポイント
PPMの秀逸さは、各製品の“好き嫌い”や声の大きさで議論する前に、会社としての戦略バランス(成長・収益・リスク)を同じ地図に載せられる点です。BCGの4象限(花形/金のなる木/問題児/負け犬)に代表されるように、象限ごとに「投資」「回収」「実験」「撤退」のルールを置くことで、会議が“評価”で止まらず“配分”まで進みます。
さらに対象は製品に限りません。広告チャネルや施策を並べれば「マーケ予算のポートフォリオ」、必要な能力(CRM、分析、生成AI運用など)を並べれば「組織能力のポートフォリオ」として機能します。AIマーケティングの時代は環境変化が速いため、需要予測・LTV・増分効果などの指標を更新しながら、四半期単位で資源配分を入れ替える“運用”に落としやすいのも強みです。
提唱者・発表時期
日本でPPMと言う場合、実務・教育の文脈ではBCGの成長・シェア・マトリクス(Growth Share Matrix)を指すことが多いです。BCGによれば、この枠組みは社内の共同作業として生まれ、アラン・ザコンが最初にスケッチし、ブルース・ヘンダーソンが1970年の論考『The Product Portfolio』で普及させました。また、四象限の呼称(stars/cash cows/question marks/pets or dogs)もここから広まり、当時はFortune 500の約半数で使われたと紹介されています。
その後、より多面的に評価する枠組みとして、1970年代初頭にGEとマッキンゼーの9ボックス(業界魅力度×競争力)が登場し、投資・選択・撤退を体系化しました。
近年の「Product Portfolio Management」は、特定のマトリクス名というより、製品群を戦略に整列させ、リスクと機会を見ながら資源配分を継続最適化する“管理プロセス”として説明されることが増えています。
詳細説明
PPMは「複数の対象を同じ物差しで並べ、限られた資源(人・金・時間)をどこに厚く張るか」を決める考え方です。背景には、多角化が進んだ1970年前後に、キャッシュを“稼ぐ事業”から“伸びる事業”へ再投資する必要が高まったことがあります。成長・シェア・マトリクスは、相対市場シェアと成長率という2軸で資源配分を整理し、象限ごとの基本方針(投資/回収/選別/撤退)を明確にしました。
一方で、環境変化が加速した現代では「市場シェアが持続的成果の直接予測因子ではなくなった」「より速い資源移動と戦略的実験が必要」といった指摘があり、軸や運用のアップデートが前提になります。つまりPPMは“図を作って終わり”ではなく、“意思決定を回す仕組み”として捉えるのが実務の要諦です。
代表的な型(使い分けの目安)
| 型 | 代表例 | 軸 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 2×2で荒く切る | BCG | 成長率×相対シェア | 早い合意形成、全体像の共有 | 市場定義がぶれると全て崩れる |
| 多面的に評価 | GE/マッキンゼー | 業界魅力度×事業強さ | 事業が多く、評価軸が複雑 | 指標が増えるほど“採点ゲーム”化 |
| 自社KPIで設計 | 施策PPM/組織PPM | 伸びしろ×確度、重要度×成熟度等 | 広告配分、組織作り、AI投資 | 目的(配分ルール)から逆算する |
作り方(最低限の手順)
対象を定義(製品/SKU、施策、能力など)
軸を2つに絞る(第三軸はバブルサイズ等で表現)
しきい値を置く(High/Lowの基準を明文化)
象限ごとの意思決定ルールを決める(投資・維持・実験・撤退)
更新頻度と意思決定者を固定(四半期など。指標更新もセット)
製品以外への転用(マーケ/組織)
マーケPPM:チャネル/施策を「増分利益インパクト×スケール性」「確度×伸びしろ」などで整理し、広告配分とテスト計画を一体化します。
組織PPM:人を分類せず、役割・能力(CRM運用、分析、生成AI運用、計測基盤など)を「戦略重要度×現状成熟度」で整理し、採用・育成・配置の優先順位を合意します。
誤解しやすいポイントと覚え方
「花形/金のなる木/問題児/負け犬=PPMそのもの」ではありません。4語はBCGの象限ラベルで、PPMは“資源配分の意思決定と運用”です。
略称PPMはProductだけでなく、Project Portfolio Managementを指すこともあり、文脈確認が必須です。
覚え方は「育てる(花形)/稼ぐ(金のなる木)/試す(問題児)/畳む(負け犬)」——分類で止めず、配分まで進める合言葉にします。
具体例/活用案
1) SKU整理(商品棚卸し)に使う
売上上位でも粗利が薄いSKU、伸びているが供給制約があるSKUなどを、単品の議論で揉める前にPPMで“戦略バケット”に分けます。おすすめは「粗利インパクト×成長性」を軸にし、バブルサイズを在庫負担やCS工数にするやり方です。花形は供給・販促を厚く、金のなる木は欠品防止と利益率維持、問題児はターゲット/価格/訴求を変える短期実験、負け犬は終売やセット化で縮小——と、次の一手が明確になります。
2) 広告配分(マーケPPM)に使う
チャネル(検索、SNS、動画、アフィリエイト等)や施策を「増分利益×スケール性」で整理し、配分と検証をセットにします。問題児に当たる新施策は、最初から“勝ち筋の仮説・KPI・期限・撤退ライン”を置き、ABテストやリフト計測で合否を決めます。AIマーケでは、生成AIでクリエイティブ案を量産しつつ、評価は増分(インクリメンタリティ)で統一すると、短期のROAS最適化に偏りにくくなります。
3) 組織作り(組織PPM)に使う
能力(ケイパビリティ)を対象に「戦略重要度×成熟度」で並べます。例:①計測基盤、②CRM/リテンション、③分析(LTV/需要予測)、④生成AI運用(コンテンツ/業務自動化)。花形=重要で伸びる領域は採用・育成を厚く、金のなる木=安定稼働領域は標準化と自動化で生産性を上げ、問題児=重要だが未成熟な領域は小さく実験して型化、負け犬=重要度が低い活動は廃止・外注・自動化で縮小します。個人を四象限に入れないことで、納得感を損ねずに資源配分の議論ができます。
誤用の例(注意喚起)
先に結論ありきで“撤退の正当化”に使う(議論が不信に変わる)
市場定義や相対比較が曖昧なまま色分けする(図の見栄えだけ整う)
共食い・クロスセルなどのシナジーを無視して負け犬を乱切りする(短期利益が長期損失に化ける)
1年に1回だけ作って更新しない(環境変化で即陳腐化)
PPMは「正しい分類」より「意思決定ルールと更新頻度」を設計するほうが成果に直結します。
すぐ使える問い(Killer Question)
PPMを“配分会議”で機能させるための、死角を突く問いです(問い→理由)。
いま“金のなる木”と信じている領域が、技術・規制・競合の変化で急落するとしたら、最初に壊れるKPIは何ですか? 原資が枯れると全配分が崩れるため、先行指標を定義します。
“問題児”に投資するなら、勝ち筋仮説(誰に・何を・どう届けるか)と検証設計(KPI/期間/予算上限/撤退ライン)は揃っていますか? 条件がない投資は検証なき延命になりやすいです。
“負け犬”に見える対象が担っている役割(導線、セット需要、信頼、学習データ、サポート負荷低減など)を数字で説明できますか? シナジー無視の乱切りは短期合理化が長期損失に化けます。
参考文献リスト
一次情報源(公式サイト)
Boston Consulting Group (BCG) – What Is the Growth Share Matrix?
URL: https://www.bcg.com/about/overview/our-history/growth-share-matrix
内容:BCGによるGrowth Share Matrixの公式説明、開発経緯、Alan ZakonとBruce Hendersonの役割、Fortune 500企業の採用率に関する公式記録。Boston Consulting Group (BCG) – The Product Portfolio (1970)
URL: https://www.bcg.com/publications/1970/strategy-the-product-portfolio
内容:Bruce Hendersonによる1970年の原典論文。PPMの概念を最初に普及させた歴史的文献。Boston Consulting Group (BCG) – BCG Classics Revisited: The Growth Share Matrix (2014)
URL: https://www.bcg.com/publications/2014/growth-share-matrix-bcg-classics-revisited
内容:BCG自身による2014年の再検討論文。現代におけるマトリックスの限界、市場シェアの予測力低下、ビジネス環境の変化について分析。McKinsey & Company – Enduring Ideas: The GE–McKinsey nine-box matrix
URL: https://www.mckinsey.com/capabilities/strategy-and-corporate-finance/our-insights/enduring-ideas-the-ge-and-mckinsey-nine-box-matrix
内容:McKinseyによるGE-McKinsey 9ボックス・マトリクスの公式説明。1970年代初頭の開発経緯とその目的。
百科事典・学術資料
Wikipedia – Growth–share matrix
URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Growth–share_matrix
内容:BCG Growth Share Matrixの詳細な解説。開発プロセス、Alan Zakonの貢献、Bruce Hendersonの1970年論考、四象限の呼称の由来について包括的に記載。Wikipedia – GE multifactorial analysis
URL: https://en.wikipedia.org/wiki/GE_multifactorial_analysis
内容:GE-McKinsey 9ボックス・マトリクスの詳細。1970年代初頭の開発、BCGマトリクスとの比較、利点と限界について解説。Business Perspectives Journal – “Not dead yet: the rise, fall and persistence of the BCG Matrix”
URL: https://www.businessperspectives.org/index.php/journals?controller=pdfview&task=download&item_id=8203
内容:BCGマトリクスの興隆、衰退、持続性に関する学術論文。1972年から1982年におけるFortune 500企業の約半数による採用について記録。
実務・戦略分析資料
Corporate Finance Institute – Boston Consulting Group (BCG) Matrix
URL: https://corporatefinanceinstitute.com/resources/management/boston-consulting-group-bcg-matrix/
内容:BCGマトリクスの実務的応用、四象限の説明、戦略的意思決定への活用方法。Investopedia – Master the BCG Growth Share Matrix for Strategic Business Decisions
URL: https://www.investopedia.com/terms/b/bcg.asp
内容:BCGマトリクスの機能、利点、現代における使用状況について実務的な視点から解説。The Strategy Institute – Boston Consulting Group (BCG) Growth-Share Matrix
URL: https://www.thestrategyinstitute.org/insights/boston-consulting-group-bcg-growth-share-matrix
内容:BCGマトリクスの戦略的応用、リソース配分における役割、Bruce Hendersonの貢献について解説。
批判的分析・現代的視点
StudyCorgi – Boston Consulting Group (BCG) Matrix: Application and Limitations in Business Strategy
URL: https://studycorgi.com/boston-consulting-group-bcg-matrix-application-and-limitations-in-business-strategy/
内容:BCGマトリクスの現代的限界、相対的市場シェアが競争力の唯一の指標ではないという批判、デジタル時代への適応の必要性について分析。Modern Ghana – The Boston Consulting Group (BCG) Matrix
URL: https://www.modernghana.com/news/1291437/the-boston-consulting-group-bcg-matrix.html
内容:BCGマトリクスの基本概念、四象限の実務的説明、批判と限界(相対的市場シェアへの過度の依存、環境要因の無視など)について論じる。
補足資料
Airfocus – What is the Boston Consulting Group growth-share matrix?
URL: https://airfocus.com/glossary/boston-consulting-group-growth-share-matrix/
内容:Alan Zakonの役割、BCGマトリクスの開発経緯、実務での活用方法について簡潔に解説。SafetyCulture – Understanding the BCG Growth Share Matrix
URL: https://safetyculture.com/topics/bcg-matrix
内容:BCGマトリクスの実践的ガイド、四象限(Stars, Cash Cows, Question Marks, Dogs)の詳細な説明。Gocious – Product Portfolio Management 101: Your Ultimate Portfolio Planning Guide
URL: https://gocious.com/blog/product-portfolio-management-ultimate-guide
内容:PPMの現代的応用、戦略的アラインメント、価値最大化、リスクバランス、リソース配分について包括的に解説。


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