Summary
安全・品質・信頼性(Safety, Quality & Reliability)カテゴリにおける 5 Whys は、現象を「再発防止できる原因」まで掘り下げ、対策に結び付けるための基本技法です。
一言で言うと「“原因を“物語”ではなく“因果”として扱うための、反復質問フレーム”」。
いつ使うか: 不具合・クレーム・CVR低下・ヒューマンエラーなど、「まず最短で真因と暫定対策の筋道を揃えたい」ときに使います。
秀逸ポイント
5 Whys の強みは、原因追究を「納得感のある説明」ではなく、反証可能な因果の鎖に変える点です。トヨタ生産方式(TPS)の問題解決では、現場で起きた現象を起点に、なぜを繰り返して「次に同じことが起きない条件(仕組み)」へ落とす発想が重視されます。
また、“5回”は回数ノルマではなく深掘りの目安で、問題の複雑度に応じて増減します(重要なのは「深さ」より「検証」と「対策への接続」)。
マーケ実務に刺さるのは、会議が「犯人探し」や「施策案の乱発」になりがちな局面で、5 Whys が 論点を“原因→再発防止策”へ強制的に整流してくれる点です。さらに生成AIを使う場合、Whysの各段に「証拠(ログ・計測・顧客声)」を紐付けることで、AIの“もっともらしい推測”を抑え、分析の品質を上げられます。
提唱者・発表時期
5 Whys は、TPSの問題解決訓練の主要要素として広く知られ、TPSの体系化に大きく関わった 大野耐一(Taiichi Ohno) が「問題が起きたら“なぜ”を5回」等の趣旨で述べたことがしばしば引用されます。
一方で、起源については整理の仕方に幅があり、「トヨタ創業者の豊田佐吉の時代(1930年代)に遡る」と紹介する実務記事もあります(ただし一次史料ベースでの確定は難しく、諸説として扱うのが安全です)。
また、5 Whys はリーン/カイゼン/シックスシグマ等の文脈へ広がり、製造以外(ソフトウェアのポストモーテム等)でも定着しました。
詳細説明
1) 5 Whysとは何か(最小定義)
5 Whys は、ある問題(現象)に対して「なぜ?」を反復し、**原因—結果の連鎖(causal chain)**を明示して、最後に「再発防止につながる原因(真因)」と「打ち手」を結び付ける技法です。
2) 進め方(テンプレート化すると失敗しにくい)
Step0:現象を定義する(いつ/どこで/何が/どのくらい。数値と事実で)
Step1:Why #1(現象の“直前要因”を、推測でなく証拠で)
Step2:Why #2〜#4(仕組み・設計・運用・前提条件へ遡る。都度「根拠」を付ける)
Step3:Why #5(または十分な深さ):対策可能で、再発防止に効く原因か?
Step4:対策(暫定/恒久)と検証:再発しないことをどう確認するか(KPI・監視・監査)
5 Whys が「やりっぱなし」になりやすいのは、Whyの列が埋まった時点で満足してしまい、対策と検証設計が弱いケースです(“原因の特定”と“再発防止”は別工程)。
3) 関連用語との違い(比較表)
| 手法 | 向いている状況 | 強み | 弱み/注意 |
|---|---|---|---|
| 5 Whys(なぜなぜ分析) | 単純〜中程度の問題、まず筋道を揃えたい | 速い・安い・合意形成しやすい | 複合要因を一本の鎖に潰しがち |
| 特性要因図(フィッシュボーン) | 要因が多岐、洗い出しが必要 | 網羅的に広げられる | 収束(真因・対策)で止まりやすい |
| FTA(Fault Tree Analysis) | 安全・重大障害、複合要因、上位事象から論理分解 | AND/ORで分岐を保持し体系的 | 構築コスト高、前提・粒度設計が要 |
| FMEA | 予防(設計・工程の故障モード) | 事前に潰す | 発生後の因果追究そのものとは目的が異なる |
| 8D / A3 | 事象対応を型で回したい(品質) | 進行管理が強い | 現場データが薄いと形式だけ残る |
結論: 複合要因が疑われるなら、最初から5 Whysで一本化せず、(簡易)原因ツリー/特性要因図/FTAで分岐を描いてから、枝ごとに5 Whys が堅いです。
4) ヒューマンエラーを「人のせい」にしない
“ヒューマンエラー”は便利なラベルですが、原因を止める言葉にもなります。実務で有効なのは、
その行動が起きた条件(手順・UI・負荷・権限・教育・監督・例外運用)
その条件を許した仕組み(設計・運用・監査・計測)
まで降りることです。
国内では、なぜなぜ分析をうまく進めるためのルール群として 「なぜなぜ分析10則」 のような整理があり、ヒューマンエラー多発への対応として表現を改訂した、といった説明も見られます(流派は複数あり得る点に注意)。
5) 「10則」「12か条」は“万能ルール”ではなく運用知
10則:小倉仁志氏が、なぜを適切に展開し対策へ導くためのルールとしてまとめた、とされています。
12か条(12カ条):研修・コンサル各社が「独自に発展・改良したメソッド」として提示している例があり、一般名詞というより“提供メソッド”に近い扱いです。
ここで押さえるべきは、数字(10/12)よりも中身で、要点は概ね共通して 「現象定義→証拠→因果→対策→検証」 を崩さないことです。
6) AIマーケティングにさりげなく接続すると
生成AIや予測モデルを使う現場ほど、根本原因が「施策」ではなく データ・計測・運用の“見えない断絶” に潜みます。5 Whys を、
CVR低下 → 計測タグ → 同意管理 → 参照元欠損 → 学習データ分布
のように「データの因果」に適用すると、AI活用の“当たり外れ”を仕組み側で安定化できます(AIに原因を語らせるのではなく、AIは証拠探索の補助に置く)。
VEの“機能定義(動詞+名詞)”を5 Whysに転用する
VEの機能定義が、5 Whysの精度を上げる理由
5 Whys は簡便な反面、途中の“Whyの答え”が あいまい語(注意不足/運用が悪い/設計ミス) になった瞬間に、因果が崩れて精神論に流れやすい欠点があります。そこで有効なのが、VE(価値工学/価値分析)で重視される 「機能を動詞+名詞で言い切る」 という作法です。VEでは、機能を「何か(What it is)」ではなく「何をするか(What it does)」として捉え、動詞は“何をする?”、名詞は“何に対して?” を答える形で表現します。
これを5 Whysに持ち込むと、各段の答えが次のように改善します。
あいまい(悪い例):担当者の確認不足
機能言語(良い例):チェック工程が「検出エラー」を実行できていない(=Detect error が欠けている)
効果:原因が“人”ではなく“条件・仕組み”に落ち、対策が「教育します」ではなく「検出機能を実装する(監視/テスト/承認ゲート)」に接続しやすくなります。
5 Whys × VE:書き方テンプレ(おすすめ)
Whyの答えは原則「動詞+名詞(できれば測定可能)」で書くと、チーム合意が速くなります。
テンプレ
事象(現象):何が起きたか(数値・事実)
Why #n(答え):[動詞] [名詞](例:Increase latency/Lose consent flag/Block submission)
根拠:ログ/計測/観察/再現条件
つながり:それが起きると、なぜ上位事象が起きるのか(因果の説明)
※VEの世界では、機能定義や機能分析は価値向上の中核として扱われ、標準でも「動詞+名詞」形式が繰り返し強調されます。
5 Whys × VE:機能言語(動詞+名詞)で“作文”を止め、FASTで“分岐”を残す
5 Whysは、素早く原因と対策の筋道を揃えられる一方で、途中の答えが「あいまい語(確認不足/運用が悪い/意識が低い)」になった瞬間に、因果が崩れて精神論に流れがちです。さらに複合要因の問題を、議論の都合で一本の因果鎖に潰してしまう(=分岐を消す)失敗も起きやすいです。
この2つを同時に抑えるのに相性が良いのが、VE(Value Engineering/Value Analysis)の「機能を動詞で語る」作法と、FAST(How/Why/When)による“機能のつながり”の可視化です。
1) VEのコツ:Whyの答えを「動詞+名詞」に矯正する
VEでは機能を「何であるか」ではなく「何をするか」として捉え、**動詞+名詞(できれば測定可能)**で表現します。この作法を5 Whysの各段に適用すると、原因が“人”ではなく“条件・仕組み”に落ち、対策が「注意する」ではなく「検出/防止/標準化する」に接続しやすくなります。
悪い例:担当者の確認不足
良い例:チェック工程が 「エラーを検出する(Detect error)」 を実行できていない
良い例:リリース工程が 「危険変更を遮断する(Prevent unsafe release)」 を持っていない
ポイントは、動詞が“行為”を、名詞が“対象”を固定するので、議論が「印象」ではなく「検証」へ寄ることです。
2) すぐ使えるテンプレ:5 Whysを“機能+根拠”で書く
Whyを埋めるときは、列を増やしてでも「根拠」と「因果のつながり」を明示します。
現象(事実):いつ/どこで/何が/どの程度(数値・ログ・観察)
Why #n(答え):[動詞][名詞](例:Increase latency / Lose consent flag / Block submission)
根拠:ログ、計測、再現条件、顧客の声、画面録画など
因果のつながり:それが起きると なぜ上位現象が起きるのか(一文で)
これだけで「結論ありきの作文」や「人のせいで終了」をかなり防げます。
3) しかし分岐は残らない:そこでFAST(How/Why/When)を“前処理”にする
5 Whysのもう一つの落とし穴は、複合要因を一本化してしまう点です。ここを補うのがFASTです。FASTは、機能同士を Why(何のために)/How(どうやって) で横につなぎ、さらに When(その機能を行うとき同時に必要な条件機能) を縦にぶら下げて、目的‐手段‐条件を分けて整理します。
FAST→5 Whysの最短手順(10〜15分で十分)
主経路(How/Why) を横に描く:目的 → 手段の連鎖
例:Increase conversion ← Complete purchase ← Capture payment各ノードに When(条件機能) を縦に足す:同時に満たすべき要件
例:Ensure consent/Prevent fraud/Reduce latency/Maintain data integrity「壊れている場所」を特定する:主経路か?条件機能か?(分岐のまま残す)
該当ノードにだけ5 Whys を当てる:全体を一気に掘らない(一本化しない)
こうすると、たとえば「CVR低下」を広告訴求の問題に短絡せず、Ensure consent(同意分岐)、Maintain data integrity(計測・スキーマ・データ品質)といった“見えない条件機能”の破綻を早期に疑えます。AIマーケ/計測領域で起きる不具合は、まさにこの条件機能側に潜みやすいので、再発防止の精度が上がります。
4) やること/やらないこと(実務の勘所)
やること
Whyの答えは必ず「動詞+名詞」にする(曖昧語を禁止ワード化)
各段に根拠(ログ・計測・再現条件)を添える
複合要因が疑われるなら、まずFASTで主経路と条件機能に分け、分岐を残す
対策は「暫定」と「恒久」に分け、最後に“検証方法(監視・テスト・ゲート)”まで書く
やらないこと
「注意不足」「教育不足」で止める(再発防止が仕組み化されない)
FASTを“それっぽい英語の羅列”にする(測れない機能は役に立たない)
分岐があるのに、5 Whysだけで一本化して結論を急ぐ(打ち手が外れる)
マーケ/AI運用での「機能言語」適用例
例:CVR低下(5 Whys)を“機能言語”で締める
現象:LPのCVRが先週比 -25%
Why #1:Increase drop-off(フォーム到達後の離脱が増えた)
Why #2:Increase latency(モバイルで入力が重い)
Why #3:Execute script twice(同意分岐とA/Bスクリプトが競合し二重実行)
Why #4:Miss regression test(同意ON/OFF×主要ブラウザの回帰テストが未整備)
Why #5:Lack release gate(計測・同意・A/B周りの変更を止めるゲートと監視がない)
ここでのポイントは、途中の答えを「担当の確認不足」ではなく、“欠けている機能”(例:Detect script duplication/Prevent unsafe release)として表現することです。すると対策が、教育ではなく 監視(RUM)・回帰テスト・リリースゲート に自然に落ちます。
AIマーケの落とし穴に効く:機能言語で“データ不具合”を特定する
生成AIやスコアリングの品質劣化は「モデルが悪い」で片付けがちですが、実態は データ連携・同意管理・スキーマ変更 など運用要因が多いです。
5 Whys の各段を機能言語にすると、
Lose feature signal(特徴量信号が欠損)
Change schema id(同名フィールドが別IDに置換)
Lack change control(スキーマ変更管理がない)
のように、原因が“仕組みの欠落”として可視化され、恒久対策(監視・契約・レビューゲート)に結びつきます。
具体例/活用案
例1:TPSの文脈での典型(設備停止の掘り下げ)
大野耐一の例として紹介される「機械が止まる」ケースのように、現象→直前原因→保全・交換・標準化へ遡って、**“次に止まらない仕組み”**へ接続します。重要なのは、最後を「注意します」「気を付けます」で終わらせず、交換点検のルール・部品箱・監視などに落とす点です。
例2:ソフトウェア/運用ポストモーテム(“防御の層”を厚くする)
リーンスタートアップ文脈では、障害が出たときに「なぜテストが捕まえなかったか」「なぜ監視が検知しなかったか」といった防御層(テスト・監視・運用手順)の改善へ5 Whys をつなげ、再発を“仕組み”で潰す実践が語られています。
例3:マーケ施策の失速(CVR低下)— なぜなぜ分析テンプレート例
現象:LPのCVRが先週比 -25%(広告流入は同等)
Why:フォーム到達後の離脱が増えた
Why:モバイルで入力が重い(エラー増)
Why:タグ追加でページが遅延、特定ブラウザでバリデーションが暴発
Why:A/Bテスト用スクリプトが同意管理の分岐と競合し、二重実行
Why:リリース前に“同意ON/OFF×主要ブラウザ”の回帰テストが標準化されていない
対策:スクリプト実行条件の統一、回帰テスト観点の標準化、監視(RUM)追加、リリースゲート設定
誤用注意:「運用が悪い」「担当が確認不足」で止めると再発します。最後は標準・テスト・監視に落としてください。
例4:AIスコアリング精度の劣化(“モデルのせい”にしない)
現象:リードスコアの高スコア群の商談化率が低下
Why展開の例:
Why:高スコアでも“温度感の低い”リードが混入
Why:入力特徴量の一部(イベント参加)が欠損
Why:MA側の項目定義が変更され、同名フィールドが別IDになった
Why:データ契約(スキーマ変更管理)と監視がない
Why:変更を検知しアラートする仕組み(データ品質SLO)が未整備
対策:特徴量ごとの欠損監視、スキーマ変更のレビューゲート、学習データ分布ドリフトの定点観測
AI活用ほど、真因は「モデル」より データ・運用・ガバナンスにある、が定番パターンです。
5 Whysで「やること/やらないこと」(実務ノウハウ)
やること
現象を数値・事実で固定し、Whyごとに根拠を付ける(ログ、現場確認、顧客声)
“人”ではなく“条件と仕組み”に遡る(ヒューマンエラーを終点にしない)
複合要因が疑わしければ分岐を描く(原因ツリー/FTA等)
やらないこと
最初から結論ありきでWhyを“作文”する(会議映えするが再発する)
「教育不足」「注意不足」で止める(対策が精神論になりがち)
重大事故・安全案件を、5 Whys単独で済ませる(FTA等の併用を検討)
すぐ使える問い(Killer Question)
この“最後のWhy”は、仕組み(標準・設計・監視)を変えれば再発が止まる原因か?――止まらないなら「原因」ではなく“説明”で終わっています。
私たちは今、複合要因を一本の鎖に潰していないか? 分岐(原因ツリー/FTA)が必要では?――複雑問題を単純化し過ぎると、打ち手が外れます。
“人のミス”に見えるが、ミスが起きる条件(負荷・UI・権限・例外運用)を設計で消せているか?――再発防止は個人能力ではなく環境設計で決まります。
- この“Whyの答え”は、機能(動詞+名詞)として書き直せるか? ――書き直せないなら、原因が曖昧で検証不能なままです。機能言語に落ちない原因は、たいてい「人のせい」か「印象論」に寄っており、再発防止策が精神論になります。
主要な情報源リスト
一次資料:
- Ohno, Taiichi (1988). “Toyota Production System: Beyond Large-Scale Production” – Archive.org
- 小倉仁志 (2007). 「なぜなぜ分析の10則-2007年度版」 – Management Dynamics PDF
二次資料:
- Wikipedia: Five Whys – Wikipedia
- Lean Enterprise Institute – Lean.org
- Institute for Healthcare Improvement – IHI
- Serrat, O. (2017). The Five Whys Technique. Springer – Springer
- Toyota Industries Corporation – Toyota Industries
- Toyota Global – Toyota Global
marketing-ai.bizでは、トヨタ用語集のまとめページもあるのでご覧ください。
トヨタ用語集:TPSはもちろん面着・○カ・号口など…現場と企画で使う頻出ワード集(番外編:略称)


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