Consumer Decision Journey(CDJ / Customer Decision Journey)

Marketing Frameworks

Summary

Consumer Decision Journey(CDJ / Customer Decision Journey)は、購買がファネルのように一直線ではなく、比較・レビュー・体験を往復しながら進む現実を捉える意思決定モデルです。
重要なのは、検討が進むほど候補が減るとは限らず、評価段階でブランドが“追加”され得ること。だからこそ勝ち筋は「広告で押す」よりも、「探索を助ける/不安を減らす/比較を簡単にする/体験で推薦を生む」に移ります。

ひとことで言うと「購買は漏斗ではなく、タッチポイントを往復しながら進む“意思決定の旅”である」

使う場面:施策が増えたのに効かないとき、どの接点(レビュー・比較・店頭・利用後)に投資すべきかを再配分するために使います。


秀逸ポイント

「Customer / Consumer Decision Journey」の秀逸さは、「検討が進むほど選択肢が減る」という“ファネルの前提”を疑い、むしろ評価段階でブランドが追加され得る点を構造として持っていることです。
その結果、勝ち筋が「広告で押す」から「探索を助ける/不安を減らす/比較を楽にする/体験で推薦を生む」へ移ります。さらに、購入後が終点ではなく次の購買に効く“ループ”として扱うため、解約抑止・口コミ・リピートまで同じ設計思想でつなげられます。

AIマーケの文脈でも、顧客の質問(レビュー要約、比較、使い方)に即応する生成AIやレコメンドは、まさに評価〜購入後の接点最適化そのものです。


提唱者・発表時期

「Customer / Consumer Decision Journey」という呼称とフレームを広く普及させたのは、McKinsey Quarterlyの2009年記事(David Court, Dave Elzinga, Susan Mulder, Ole Jørgen Vetvik)です。ここで従来のファネルでは捉えきれないとして、意思決定を4フェーズの循環として描きました。
また、HBRのDavid C. Edelman(2010)も、デジタル時代の意思決定プロセスとしてCDJを扱い、投資配分の再設計を促しています(※原文は購読環境に依存)。
2015年にはMcKinsey側で「アップデートが必要」として改訂視点が提示され、企業が“反応する”だけでなく“形作る”可能性(デジタル能力の組み込み)に論点が拡張しました。


詳細説明

1) Consumer Decision Journey と Customer Decision Journey の違いは?

基本的には同義として扱われます。McKinsey原文の表記は Consumer Decision Journey ですが、B2Bやサブスク文脈では “Customer” 表記が使われることもあります。重要なのは呼称より、評価がループし、購入後が次の購買を規定するという構造です。

2) なぜファネルでは足りなくなったのか

ファネル(AIDA/AISAS等)は「上から下へ、候補が絞られていく」モデルです。一方CDJは、商品数・チャネル・情報(レビュー/比較/SNS)が爆発し、消費者が自分で情報を“引きに行く”状況では、意思決定が直線にならないことを前提にします。McKinseyはこの変化を、デジタルチャネル増加と情報武装した消費者の登場として説明しています。

3) CDJの基本構造(4フェーズ)

McKinseyのCDJは、以下の4フェーズを循環として捉えます。

  • Initial consideration(初期想起/初期考慮集合):最初に思い浮かぶ少数の候補

  • Active evaluation(能動的評価):レビュー・比較・店頭確認など探索が活発化

  • Closure(購入):購入の“決着”

  • Postpurchase(購入後体験):体験が次回の想起・推薦に影響(ループ化)

特に重要なのは、評価段階で候補が増え得る点です(PCや自動車で「初期候補に追加が起きる」ことが示される)。

4) CDJが示す、実務上の“戦場”の変化

McKinseyの調査では、能動的評価フェーズのタッチポイントの多くが、レビューや口コミなど消費者主導の活動だとされます。
さらに購入後も検索が続き(例:スキンケア購入後に追加調査する人が多い)、購入後体験が次の意思決定を規定します。
つまり、広告・LP最適化だけでは勝てず、比較・検討を助ける情報設計と、体験→推薦まで含む設計が必要になります。

5) 「ロイヤルティ」を分解して扱う(能動/受動)

CDJはロイヤルティを1枚岩にせず、**能動的ロイヤル(推奨する)受動的ロイヤル(惰性で継続)**を区別します。受動的ロイヤルは競合の“乗り換え理由”があれば動くため、比較やスイッチを簡単にする企業がそこを奪いに行く、という整理です。

6) 関連用語との違い(混同しやすいポイント)

学術・実務の「カスタマージャーニー」は複数タッチポイント/複数チャネルにまたがる経験を重視し、近年は研究も厚くなっています(例:Lemon & Verhoef, 2016)。
CDJはその中でも特に「意思決定(Decision)」に焦点を当て、初期想起・評価・購入・購入後という“購買に直結する循環”として扱う点が特徴です。

観点ファネル(AIDA/AISAS等)Customer Decision JourneyCustomer Journey Map
直線・絞り込み循環・追加も起きる現状の体験を可視化
主戦場上流認知〜CV評価の情報設計/購入後体験断点(不満)と改善点
KPI例CTR/CVR初期想起入り、比較勝率、推奨率NPS/CS/離脱率
  • 初期想起入り:「検討のスタートラインに立てているか」

  • 比較勝率:「比較されたときに勝てるか」

  • 推奨率:「体験が次の顧客を連れてくるか」


KPIを徹底的に活用

1) 初期想起入り(Initial Consideration Inclusion)

定義(何を“勝ち”とするか)

顧客が購買検討を開始した瞬間(Category Entry)に、最初の候補集合(初期考慮集合)に自社が入っている状態
KPIは通常「初期想起入り率(ICIR)」として扱います。

  • 初期想起入り率(ICIR)
    = 初期候補に自社を挙げた人数 ÷ 対象者人数

  • 実務では「Top1想起」「Top3想起」「初期候補(自由記述で挙がったブランド)」など、カテゴリ特性に合わせて定義を固定します。

計測の仕方(おすすめ順)

A. サーベイ(最もCDJらしい“正攻法”)

  • 対象:直近で購買検討を開始した人(直近◯週間で検討開始)

  • 質問例:
    「このカテゴリを検討し始めたとき、最初に候補に入れたブランドをすべて挙げてください(自由記述/選択肢併用)」

  • 重要:カテゴリ・セグメント別(用途、価格帯、チャネル、経験者/初回)に分ける。平均値は当てにならないことが多いです。

B. デジタル代理指標(早く回せる“運用向け”)
初期想起そのものは行動ログだけで直接観測しづらいので、次の“代理指標”をセットで持つと運用が回ります。

  • ブランド検索流入比率(カテゴリ+ブランドの指名検索、ブランド単体検索)

  • ダイレクト流入 / ブックマーク比率

  • SNS/コミュニティでの自然言及量(量だけでなく文脈も)

サーベイで「初期想起入り」を定義し、日次〜週次は代理指標で変化を追い、月次/四半期でサーベイで整合確認、が現実的です。

向上させるポイント(効くレバー)

  • “想起トリガー”を設計する:用途・状況(例:引越し、卒入学、資格学習開始、更新時期)に紐づけたメッセージを一貫させる

  • Distinctive Assets(識別資産):名前、見た目、言い回し、体験の一貫性。覚えられないブランドは初期候補に入りません

  • 「比較される前提」の入口設計
    SEOなら「おすすめ」「比較」「選び方」「失敗したくない」に寄せた“入口”を用意し、検討開始の最初の検索に刺す

  • チャネル整備:店頭やマーケットプレイス等、“そこで検討が始まる”場所にいないと初期候補に入りづらい

  • AIマーケのさりげない接続:生成AI検索・要約環境で参照されやすい一次情報(FAQ、仕様、比較表、根拠)を整えると、検討開始時の想起に寄与しやすい(ただし万能ではない)


2) 比較勝率(Comparison Win Rate)

定義

「能動的評価(Active Evaluation)」で、顧客が複数案を比較した結果、自社が選ばれる確率
比較に“参加できた案件”の中で勝った比率として定義します。

  • 比較勝率(CWR)
    = 勝ち数 ÷(勝ち数+負け数)
    ※分母は「比較の土俵に上がった(少なくとも競合と並べて評価された)」ケースに限定します。

ここがファネル(CVR)との決定的な違いです。CVRは“入口の質”や“非比較の衝動買い”が混ざりますが、比較勝率は「比較された時に勝てるか」という戦闘力を測ります。

計測の仕方(B2C / B2Bで分ける)

A. B2B / 高関与B2C(見積・商談がある)

  • CRMで「競合あり」案件にフラグを付ける(競合名まで取れれば理想)

  • 計測単位:案件(Opportunity)

  • 最低限のデータ設計:

    • 競合あり/なし

    • 失注理由(価格、機能、信頼、導入負荷…)

    • どの比較資料・デモ・PoCを見たか

B. EC / サブスクなど(ログで設計できる)
「比較行動をしたセッション」を定義して、その中での購入率を比較勝率の代理として扱います。

  • 比較セッション例(GA4イベント等で定義)

    • view_compare_table(比較表閲覧)

    • view_review(レビュー閲覧)

    • view_pricing(価格/プラン閲覧)

    • download_spec(仕様DL)

  • 比較勝率(代理)
    = 比較セッションの購入/申込 ÷ 比較セッション数
    ※競合名が取れない場合でも、「比較の局面で前に進めたか」は測れます。

向上させるポイント(勝率を上げる“比較の設計”)

  • 比較軸の主導権を取る:顧客が欲しい軸(価格・安心・手間・学習コスト・サポート・互換性)で比較表を用意し、“自社が強い軸”に議論を寄せる

  • 第三者証拠(Social Proof / Expert Proof):レビュー、導入事例、定量成果、監査・認証、メディア評価

  • 不安除去(Risk Reversal):返品、トライアル、解約容易性、移行支援、保証

  • 情報の“検索コスト”を下げる:仕様・制約・よくある落とし穴を先に出す。隠すと比較で負けます

  • 価格の見せ方:単価ではなく“総コスト(運用・工数・失敗コスト)”で語れると比較に強い

  • AIマーケのさりげない接続

    • 「比較表の自動生成」よりも、比較で詰まる質問(違い・適合・注意点)に即答できるナレッジ設計が効きます

    • 例:生成AIに投げられる前提で、FAQを“質問→結論→理由→例外”で整備


3) 推奨率(Recommendation Rate)

定義(“推奨”は複数の顔を持つ)

推奨率は、目的に応じて 態度(意向)行動(実際の紹介) を分けるのが重要です。混ぜると施策がブレます。

  • 態度としての推奨(NPS等)
    「友人・同僚にすすめたいか」のスコア/比率(Promoter率など)

  • 行動としての推奨(Referral)
    実際に紹介が発生し、被紹介者が流入・成約した比率

計測の仕方(最低限これをセットで)

A. NPS / 推奨意向(購入後サーベイ)

  • 質問:0〜10点推奨意向+自由記述(理由)

  • 分析:セグメント別(利用目的、利用頻度、解約兆候、プラン)で見る

B. 紹介行動(ログ)

  • 指標例:

    • 紹介コード発行率

    • 招待送信率

    • 紹介経由の登録率・成約率

    • 紹介者あたりの紹介人数

  • 重要:インセンティブを付けるなら、不正・ミスマッチを防ぐ設計が必要(短期は伸びても長期LTVを壊すことがあります)

向上させるポイント(“推奨は購入後に作る”)

  • オンボーディング(初期体験):最初の成功体験が推奨を決めます

  • 期待値設計:盛りすぎ広告は推奨を殺します(落差が不満になる)

  • モーメント設計

    • 「人に言いたくなる瞬間」(成果、気づき、驚き)を意図的に作る

  • 不満の早期検知と回復:不満の放置は“反推奨”を生みます

  • AIマーケのさりげない接続

    • 問い合わせログ・レビューをAIで分類し、推奨を阻害している“詰まり”を特定→プロダクト/導線改善へ

    • サポートの即応性は推奨に直結しやすい


3つのKPIをCDJの局面にマッピングすると、設計がブレません

  • 初期想起入り:検討開始(入口の確保)

  • 比較勝率:能動的評価(比較で勝つ)

  • 推奨率:購入後(ループを回す)

ファネルだと「流入→CV」に集約されがちですが、CDJはこの3点を分けることで、“どこで負けているか”を切り分けて改善できます


具体例/活用案

1) 初期想起に“割り込む”:Hyundai Assurance(2009)

初期考慮集合に入れないブランドが伸びるには、「比較・検討に入る理由」をつくる必要があります。McKinseyはHyundaiが“失職したら車を返品できる”というメッセージで初期想起に割り込んだ例を挙げています。
当時の施策背景や内容は外部メディアでも整理されています(例:Digidayのオーラルヒストリー)。
示唆:価格訴求ではなく、意思決定の阻害要因(不安・失敗コスト)を潰すと“検討入り”が起きやすい。

2) 受動的ロイヤルを奪う:比較と乗り換え摩擦を下げる

McKinseyは保険業界で、受動的ロイヤル顧客を比較・スイッチの容易さで獲得する動きに触れています。
示唆:解約抑止の前に、そもそも「乗り換えが簡単に見える市場」では受動ロイヤルが流出しやすい。FAQ整備、比較表、手続き透明化が“防御”になる。

3) 評価を前に進める“道具”を持つ:AmEx / Fordの診断・コンフィグ

能動的評価の勝負は「広告枠」ではなく「検討に役立つ資産」です。McKinseyはAmerican Expressのカード選択支援や、Fordの車のコンフィギュレーターを例に、クリックで選択肢を整理できるツールの重要性を述べています。
活用案:日本でも、B2Cなら「目的別診断」、B2Bなら「要件ヒアリング→推奨構成」などに置き換え可能。生成AIを使うなら“診断の対話化”が相性良い領域です。

4) 店頭で決まる領域を軽視しない(オムニチャネルの落とし穴)

オンラインで比較しても、最終決定が店頭で動くカテゴリは残ります。McKinseyは店頭で見聞きした要素で心変わりが起き得ることを示し、陳列・パッケージ等を“戦場”として位置づけています。
活用案:EC中心でも、同梱物・初回体験・返品導線は「購入後→次回想起」を左右するため、CDJ上の重要接点として扱います。

よくある誤用(注意喚起)

  • 誤用1:CDJを“新しいファネル”として直線で描き直す
    追加・往復・購入後ループの本質が消え、結局CV最適化に回帰します。

  • 誤用2:タッチポイントの棚卸しで終わる
    「その接点で顧客が何を解決したいか(不安、比較、正当化)」が書かれていないジャーニーは、施策の優先順位が決まりません。

  • 誤用3:全顧客を1枚のジャーニーに混ぜる
    初回・リピート、指名・非指名、価格敏感・品質重視などで旅は変わります。セグメント別に“別の旅”として設計すべきです。


すぐ使える問い(Killer Question)

  1. 「能動的評価で顧客が“自力で探す情報”のうち、当社が直接コントロールできていないものは何か?」
    理由:評価フェーズは消費者主導タッチポイントが厚く、放置すると比較負けが起きます。

  2. 「初期考慮集合に入る“記憶のフック”は何で、入れない人に割り込む一手(不安除去/用途特化/第三者証拠)はあるか?」
    理由:初期集合に入れるかどうかで勝率が大きく変わり、評価段階での追加設計が成否を分けます。

  3. 「受動的ロイヤルが惰性で残っているだけなら、競合が“比較と乗り換え”を簡単にした瞬間に何が起きるか?」
    理由:ロイヤルティを能動/受動に分解しないと、守りの施策(解約抑止)が後手になります。


参考情報・文献

海外資料

主要論文・記事

Court, D., Elzinga, D., Mulder, S., & Vetvik, O. J. (2009, June 1). The consumer decision journey. McKinsey Quarterlyhttps://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/the-consumer-decision-journey

Edelman, D. C. (2010, December). Branding in the digital age: You’re spending your money in all the wrong places. Harvard Business Review88(12), 62-69. https://hbr.org/2010/12/branding-in-the-digital-age-youre-spending-your-money-in-all-the-wrong-places

Edelman, D. C., & Singer, M. (2015, October 1). The new consumer decision journey. McKinsey Quarterlyhttps://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/the-new-consumer-decision-journey

Lemon, K. N., & Verhoef, P. C. (2016). Understanding customer experience throughout the customer journey. Journal of Marketing80(6), 69-96. https://doi.org/10.1509/jm.15.0420

補助的研究

Rawson, A., Duncan, E., & Jones, C. (2013, September). The truth about customer experience. Harvard Business Review91(9), 90-98.

Court, D., Gordon, J., & Perrey, J. (2017, August 25). The Customer Growth Indicator: How to win the battle for initial consideration. McKinsey & Companyhttps://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/the-customer-growth-indicator

事例研究

Pompeo, J. (2020, March 31). ‘Right thing to do at the right time’: The definitive oral history of Hyundai’s Assurance program. Digidayhttps://digiday.com/marketing/right-thing-to-do-at-the-right-time-the-definitive-oral-history-of-hyundais-assurance-program/

Hyundai Motor America. (2009, January 2). Hyundai marks the 10-year anniversary of “America’s Best Warranty” with new Hyundai Assurance program [Press release]. https://www.hyundainews.com/releases/338


日本語版参考文献

日本の読者向けに、以下のような日本語形式も追加することをお勧めします:

書籍・論文

  • Court, D., Elzinga, D., Mulder, S., & Vetvik, O. J. (2009)「顧客の意思決定ジャーニー」『McKinsey Quarterly』2009年6月号
  • Lemon, K. N., & Verhoef, P. C. (2016)「カスタマージャーニー全体を通じた顧客体験の理解」『Journal of Marketing』第80巻第6号、pp.69-96
  • Edelman, D. C. (2010)「デジタル時代のブランディング:マーケティング投資の再配分」『Harvard Business Review』2010年12月号

Web記事・プレスリリース

  • McKinsey & Company (2015)「新しい顧客の意思決定ジャーニー」(2015年10月1日)
  • Digiday (2020)「Hyundai Assuranceプログラムの全貌」(2020年3月31日)

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