Blink & Think:AI音楽の洪水で、アーティストは何を“売る”のか
日経新聞(2026年1月18日)に、AI音楽をめぐるYOSHIKI氏のインタビューが大きく掲載されていた。そこで投げられていた問いは、音楽の未来というより、もっと生々しい「存在意義」だったように思う。
このままでは、アーティストが消えるのではないか。──少なくとも、そういう危機感が社会の側に生まれ始めている。
音楽は生成AI以前から、テクノロジーの進化で「プロとアマの境界」が溶けてきた。DTM、宅録、配信、SNS。バンドでしか出せなかった音像が、一人で作れるようになった。さらに制作だけでなく、発表と流通をつなぐプラットフォームも成熟し、才能の露出機会は増え続けた。
ところが、供給が増えれば増えるほど、次の壁が立ち上がる。
“聴き手が選べない”のである。
曲が増えすぎた世界では、人は「自分で選ぶ」よりも「選ばされたものを聴く」ようになる。レコメンドは便利だが、便利さはしばしば探索を奪う。探索が減れば、聴き手の耳は狭くなる。狭くなった耳に合わせて作り手も寄っていく。こうして、作り手と聴き手の境界は、別の仕方でさらに溶けていく。
そして、そこに生成AIが来た。
Think 1:いま希少なのは「曲」ではなく「信頼」と「選別」
生成AIが加速させるのは、制作の民主化そのものというより、“供給過剰の制度化”だ。曲が作れる人が増える、というレベルではない。曲が“無限に生成できる”世界の入口が開いた。
この状況を象徴するのが、プラットフォーム側の動きだ。
たとえばBandcampは、「AIが全部または大部分を生成した音源」を禁止する方針を明確にした。狙いはクオリティ論争というより、“人が作ったと信じられる場所”を守る意思表示に見える。
一方でSpotifyは、AIによりスパム的な大量投入が容易になったことを前提に、スパム対策・なりすまし対策・AI利用の開示(クレジット)を進めると公表している。ここで重要なのは、「AIが良いか悪いか」ではなく、信頼と透明性が“仕様”になり始めた点だ。
つまり、価値の中心がズレている。
不足しているのは“コンテンツ”ではなく、コンテンツの信頼性と、選別の仕組みになってきた。
Think 2:「作れる」時代に、アーティストが提供するのは“作品”ではなく“軸”
YOSHIKI氏の発言にもあるが、アーティストには「大衆に受けるものを作る面」と「自分が好きなものを作る面」がある。生成AI時代、この二面性はむしろ強烈に可視化される。
大衆に受けるもの:データと最適化で“それっぽい正解”が量産されやすい
自分が好きなもの:市場の正解から外れても、“軸”として残りやすい
ここでの気づきはこうだ。
作品そのものより、「何を良いとするか」という価値判断(審美眼)が希少になる。
曲が無限に出てくる世界では、アーティストは単に音を生産する人ではなく、
「耳の方向を決める人(taste maker)」になっていく。
言い換えるなら、アーティストの競争相手は“別のアーティスト”だけでなく、レコメンド(プラットフォームの最適化)そのものになる。
Think 3:「新しいもの」は作れても、「新しい価値」は別問題
たとえばの話となるが、「強化学習で創造性を身につけさせる」ことは可能であろう。
AIは「過去×過去」から、未出の組合せを大量に生成できる
しかしそれが「価値」になるかは、別のレイヤー(文脈・物語・共同体・時代の痛点)で決まる
要するに、新規性(novelty)と創造性(creativity)は同義ではない。
創造性とは、多くの場合「作品」ではなく、評価軸を更新する行為に宿る。
ジョン・レノンやジミ・ヘンドリックス、カート・コバーンが革命的だったのは、音の新しさだけではなく、時代の空気に対して“言い切った”こと、つまり「軸」を提示したことでもあった。
ここでアーティストに残る役割は、かなりはっきりしてくる。
これからアーティストに求められるもの(仮説)
1) 作品ではなく「世界観の運用」
曲は生成できる。だが、どの世界を生きるかは生成できない。
アーティストは“世界観の運用者”として、作品群・言葉・ライブ・振る舞い・コミュニティを通じて「軸」を継続的に提示する。
2) “人間であること”が価値になる局面
Bandcampが「人が作ったと信じられる場所」を守ろうとしているのは象徴的だ。
今後は「AI使用の有無」そのものが争点というより、どこまでが人間の意思決定で、どこからが自動生成かを説明できることが価値になる(=透明性がブランドになる)。SpotifyがAI開示の標準化(クレジット)に触れているのも同じ流れだ。
3) “権利”が制作技術と同じくらい重要になる
レーベル側は、対立しつつも「ライセンスされたAI」へ舵を切り始めている。Warner Music GroupとSunoは、2026年に“より高度でライセンスされたモデル”へ移行し、無料層はダウンロード不可、などの制約も示している。
Udioも訴訟和解と新サービス構想のなかで、ダウンロード停止など“囲い込み(walled garden)”が語られている。
つまり、創作は「作れるか」だけでなく、どのルール(権利・同意・流通)に乗るかが勝負になっていく。
結論:アーティストは“生産者”と“提示者”に二極化するのか?
今後の音楽制作者はどうなっていくだろう。。
大衆が聴きたいものを作る生産者は、AIと協調しやすく、効率と規模で富を得る
今ないものを「価値として」提示するアーティストは、理解されるまで時間がかかり、評価は遅行する
おそらく構図は二極化するのではないだろうか。
ただし悲観一色ではなく、むしろアーティストは「曲を作る人」から、価値判断を設計する人へと職能が再定義される。ここに“存在意義”の移転が起きている。
生成AIを使う人も、結局は両面を持つことになるのだろう。
重要なのは「AIを使ったか」ではなく、自分の軸のためにAIを使ったのか/軸の代替としてAIを使ったのか。ただし、この差が聞き手にわかるだろうか。
参考資料
- このままではアーティストが消える 音楽家YOSHIKI氏 – 日本経済新聞
- Music and audio that is generated wholly or in substantial part by AI is not permitted on Bandcamp. Bandcamp Blog
- Music and audio that is generated wholly or in substantial part by AI is not permitted on Bandcamp. Billboard
- We’re helping develop and will support the new industry standard for AI disclosures in music credits, developed through DDEX. As this information is submitted through labels, distributors, and music partners, we’ll begin displaying it across the app. This standard gives artists and rights holders a way to clearly indicate where and how AI played a role in the creation of a track. Spotify Newsroom
- In 2026, Suno will make several changes to the platform, including launching new, more advanced and licensed models. When the new models launch in 2026, the current models will be deprecated. Moving forward, downloading audio will require a paid account. Suno will introduce download restrictions in certain scenarios: specifically, in the future, songs made on the free tier will not be downloadable and will instead be playable and shareable. Warner Music Group
- Warner Music Group and Suno Forge Groundbreaking Partnership. November 25, 2025. WMG Investors
- As part of the settlement with UMG, Billboard reports that the two companies will collaborate on a new product, which will let users customise the music of artists who have opted in, and – crucially – only share that music on the platform itself. Indeed, Udio has announced that downloads from its service have already been suspended – you can no longer download tracks generated on Udio and distribute them on streaming platforms. Music Business Worldwide
- Udio, an AI song generation platform, has announced a 48-hour window starting Monday for users to download their songs. AP News
- Warner Music Group, Udio settle copyright case, plan new AI song platform. November 19, 2025. Reuters
- UNIVERSAL MUSIC GROUP AND UDIO ANNOUNCE UDIO’S FIRST STRATEGIC AGREEMENTS FOR NEW LICENSED AI MUSIC CREATION PLATFORM Universal Music Group


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