JTBD(ジョブ理論 / Jobs to be Done)

Marketing Frameworks

Summary

JTBD(ジョブ理論 / Jobs to be Done)は Jobs-to-be-Done(Job(s) to be done) の略で、直訳すると「片づけるべき仕事/やるべきこと」です。ただし日常やタイムマネジメント文脈では“ToDo(タスク)”の意味で使われがちです。一方、本記事で扱うJTBDは、顧客が特定の状況で「進歩(progress)」するために製品を“雇う(hire)”理由を特定するマーケティング/イノベーションの枠組みです。
使いどころは、ペルソナや属性セグメントを作っても「刺さる訴求が出ない」「競合比較が機能列挙に堕ちる」局面です。


秀逸ポイント

JTBDの特筆点は、分析単位を「顧客(属性)」から「状況(circumstance)×望む成果(outcome)×意思決定の力学」へ移し、“真の競合”を再定義できることです。従来のデモグラフィックやプロダクト属性中心のマーケは、相関を集めやすい反面、なぜ選ばれたのかの因果が弱くなりやすい。JTBDは、機能・社会・感情の次元まで含めて「選択の理由」を捉えにいきます。

またNielsen Norman Groupが強調する通り、JTBDは“成果”に焦点を当てる一方で、共感(エンパシー)を生みにくいという弱点もあります。そのため実務では、行動・態度・メンタルモデルまで含めた「良質なペルソナ」と併用し、JTBDをペルソナに埋め込む運用が強いです。


提唱者・発表時期

JTBDは単一論文で確定した“発明”というより、複数の実務系譜が合流して広まった概念です。代表は次の2系統です。

  • Christensen系(Jobs Theory/Hiring):顧客が製品を「雇う/解雇する」というメタファーで、選択の理由を状況(forces)から解く立場。Christensen InstituteはJTBDを「意思決定へ向かう/離れる状況(forces)を可視化するレンズ」と定義し、機能・社会・感情の次元を含む点を明記しています。

  • Ulwick系(Outcome-Driven Innovation, ODI):顧客に「解決策」ではなく「アウトカム(望む結果)」を語らせ、重要度×満足度などで機会を定量化する方法論。HBR 2002で、顧客インプットを“アウトカム中心”に取り扱うフレームを提示しています。

マーケ実務では、Christensen系は「ターゲティング/ポジショニング/メッセージ」に強く、Ulwick系は「機会特定/要件定義/評価設計」に強い、という使い分けが有効です(文献の立場や流派により表現は揺れます)。


詳細説明

1) マーケティングとしてのJTBDは「顧客」ではなく「状況」を起点にする

Christensen Instituteの定義では、JTBDは“人や組織が意思決定へ向かう/離れる状況(forces)”を明らかにするレンズです。つまり、同じ人でも状況が違えば、選択(=雇う製品)が変わる前提に立ちます。

Nielsen Norman Groupも、JTBDが「製品を雇うのは特定のジョブ(成果)のため」という考え方に基づくフレームワークで、ユーザーニーズの包括リストとして扱われる、と定義しています。

2) “ジョブ”の書き方は、タスクではなく「成果+文脈+成功基準」

JTBDは成果物フォーマットが厳密に固定ではないものの、実務では「片づけるべきジョブ」を1文で表し、重要な文脈と、成功のための機能基準・**感情基準(個人的/社会的)**を含めるのが典型です。

例(テンプレ)

  • 「(状況)___のときに、(成果)___を達成したい。なぜなら(動機)___だから。」

  • 成功基準:機能(速い/正確/手間が少ない…)、感情(不安が減る/自信が持てる)、社会(良く見られる/信頼される)

3) 直訳・タスク管理の“job to be done”との違い

タイムマネジメント的に「やるべき仕事(ToDo)」として捉えると、議論が「どう効率的にタスクをこなすか」に寄りがちです。
しかしマーケのJTBDは、「そのタスクは本当に目的か? 目的(成果)へ到達する別解はないか?」を問います。Nielsen Norman Groupが指摘する通り、タスク分析/ユースケースとJTBDが似ていても、JTBDのほうが「望ましい成果」に焦点が寄り、タスク手順の指示が少ない点が本質的な違いだと説明しています(配送ドライバーの例で、印刷を最適化するのではなく、運転中に案内してもらう“成果”へ解を広げる)。

4) ペルソナ vs JTBD(対立ではなく“役割分担”)

Nielsen Norman Groupの指摘の通り、良質なペルソナにはJTBDと同等の目的情報が含まれ得る一方で、ペルソナは行動・態度・メンタルモデルなどを物語として持ち、チームの共感を生みやすい。対してJTBDは目的を明確化するが、要素を一般化しやすく共感を誘いにくい。

比較表(実務の意思決定での効き方)

観点ペルソナJTBD
得意共感形成、ユーザー差の理解、優先順位づけ成果の明確化、競合(代替)の再定義、ソリューション発想
失敗しがちデモグラのみで“マーケセグメント化”ユーザー文脈が薄く“他人事化”
使いどころ既存顧客を含む設計変更の影響調整、UX意思決定新規価値提案、メッセージ設計、イノベーション探索

特にNielsen Norman Groupは、既存顧客と新規顧客で同じジョブでも要件が変わりうるため、ペルソナでユーザー群の違いを捉え、優先順位づけする重要性を指摘します。

5) 両立の実務パターン(最も再現性が高い)

  • すでにJTBDがある:ペルソナ側に、該当するJTBD(機能・感情の成功基準)を引用して埋め込む

  • すでにペルソナがあるが弱い:目的を単なるリストで終わらせず、JTBD形式(成果+文脈+成功基準)に再記述して補強

  • 組織がペルソナに懐疑的:まずJTBDで合意を作り、後からペルソナと結合する(導入の政治的コストが下がる)


具体例/活用案

例1:ミルクシェイク事例(属性セグメントから“状況ジョブ”へ)

HBSの紹介記事では、ファストフード店チェーンがミルクシェイク売上を伸ばそうとして、デモグラや理想の味を聞く“属性セグメント”から出発したものの、打ち手が伸びなかった経緯が示されています。そこで「いつ・なぜ雇われるか」を観察すると、朝の通勤など特定状況で“片手で・腹持ちよく・退屈をしのぐ”といったジョブが立ち上がり、競合が同カテゴリ商品ではなく別の代替へ広がる、という示唆が得られます。

活用の落とし込み

  • クリエイティブ:属性訴求→状況訴求(時間帯・移動・片手)

  • 配荷・導線:朝の購入導線最適化

  • ターゲティング:年齢ではなく「朝の移動」「長距離運転」など状況クラスタで分ける

例2:Intercom(自社が“雇われる理由”を言語化して戦略を揃える)

Intercomは自社の実務として「Intercom on Jobs-to-be-Done」を公開し、JTBDがチームの言語とフレームとしてプロダクト戦略を揃える助けになった旨を示しています(公式リソース)。

活用の落とし込み

  • 価値提案:機能の羅列ではなく「どんな進歩を助けるか」で一文化

  • メッセージ:導入検討の“きっかけ(スイッチ)”に合わせた訴求へ

  • オンボーディング:成功基準(機能/感情/社会)を初期体験に織り込む

例3:誤用の典型(注意)

  • ジョブ=機能一覧:JTBDは「成果」を問う枠組みで、機能は手段です。成果が曖昧だと、差別化が機能比較に戻ります。

  • ジョブが広すぎる:「健康になりたい」「便利にしたい」はセグメントもメッセージも作れません。Nielsen Norman Groupの言う通り、文脈(いつ/どこで/なぜ)と成功基準まで下ろす必要があります。

  • ペルソナ全否定:Nielsen Norman Groupは、ペルソナはデモグラ以上の情報(目的・態度・行動)を含み得て、優先順位づけにも効くため、JTBDに置き換えるのではなく併用が合理的だと述べています。


すぐ使える問い(Killer Question)

  1. 「顧客がこの状況で達成したい“成果”は何で、その成功基準(機能・感情・社会)を私たちは明文化できているか?」
    基準が曖昧だと、施策が機能追加や訴求の小手先に流れます。

  2. 「同じジョブでも、既存顧客と新規顧客で要件が違う可能性を潰せているか?(誰を優先するかを決めたか)」
    JTBDだけだと“ユーザー群の違い”が抜け、既存のワークフローを壊す設計変更を起こしやすいです。

  3. 「私たちの“真の競合”は同カテゴリ他社ではなく、顧客がその状況で代わりに雇っている別解ではないか?」
    競争軸の取り違えはポジショニングの破綻に直結します(代替の再定義が必要)。


参考

  1. What is Jobs to Be Done Theory? – Christensen Institute
  2. Turn Customer Input into Innovation – Harvard Business Review
  3. Personas vs. Jobs-to-Be-Done – Nielsen Norman Group
  4. Intercom on Jobs-to-be-Done
  5. Clay Christensen’s Milkshake Marketing – Harvard Business School Working Knowledge
  6. History of JTBD – Strategyn
  7. Alertbox – U-Site

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