1. Summary
ブルーオーシャン:市場・競争の診断の中でも「競争の前提を疑い、需要そのものを再設計する」ための競争戦略フレームです。
「競争が激しい市場(レッドオーシャン)を避け、未開拓の価値空間を創って“戦わずに勝つ”戦略。」
いつ使うか:価格競争・機能競争で消耗し、差別化か低コストかの二者択一が限界に来たときに使います。
2. 秀逸ポイント
ブルーオーシャン戦略の秀逸さは、競争戦略を「競合をどう倒すか」から「顧客価値とコスト構造を同時に作り替えるか」へ切り替えた点にあります。中核の“価値革新(Value Innovation)”は、差別化と低コストの同時追求(and-and)を原則に据え、既存ルール上の改善ではなく「価値曲線(バリュー・カーブ)」そのものを描き替えます。
さらに、戦略キャンバス/ERRC(排除・削減・増加・創造)/非顧客の3層といったツールが“問いの型”として揃っているため、アイデアを思いつきで終わらせず、検証可能な仮説(誰の何を、何を捨てて、何を作るか)に落とせます。
また、著者らは150の戦略的ムーブ(30業界・100年超)を分析したと述べており、特定業界の成功談に閉じない“パターン抽出”を志向している点も評価されます。
3. 提唱者・発表時期
提唱者は、INSEADのW. Chan Kim(W・チャン・キム)とRenée Mauborgne(レネ・モボルニュ)です。2004年にHarvard Business Reviewで「Value Innovation」「Blue Ocean Strategy」を発表し、理論とツールを体系化した書籍『Blue Ocean Strategy』を2005年に刊行しました。
その後、ブルーオーシャンが模倣で“赤くなる”ことを前提に、更新(renewal)まで含めて扱うExpanded Edition(新版)が2015年に出ています。
4. 詳細説明
ブルーオーシャン戦略は、「既存市場での競争」ではなく「新しい需要の創造」を狙うフレームです。対になる概念がレッドオーシャンで、既存プレイヤーが同じ評価軸(価格・機能・品質など)で戦い、差別化競争が過剰になるほど利益が薄くなる状態を指します。
1. 中核概念:価値革新(差別化×低コスト)
競争戦略は、差別化か低コストか、あるいはその集中(フォーカス)という整理で語られることが多いです。
ブルーオーシャンはこのトレードオフを疑い、「不要な競争要因を捨ててコストを抜く」と同時に「別の価値要因を創って需要を引き込む」設計(=価値革新)を狙います。
2. 設計の主戦場:戦略キャンバスとERRC(4つのアクション)
戦略キャンバス:業界が当たり前に競う要素(競争要因)を横軸に置き、自社と競合の価値曲線を一枚で可視化します。
ERRC(4つのアクション):価値曲線を描き替えるための問いです。
排除:価値が薄い/邪魔な要素は何か
削減:過剰品質・過剰機能になっている要素は何か
増加:重視されるのに不足している要素は何か
創造:業界に存在しない新しい便益・体験は何か
3. 探索の視点:Six Paths と「非顧客」3層
発想が内向きになる原因は、業界境界を所与としてしまうことです。Six Paths Frameworkは、代替産業・戦略グループ・購買者・補完財・機能×感性・時間軸など“境界の外側”から機会を探す枠組みです。
また、需要創造の実務では「非顧客」分析が効きます。(1)市場の縁にいる“今にも離れる非顧客”、(2)意図的に拒否している非顧客、(3)遠い市場にいる未開拓の非顧客、の3層で整理します。
4. 似て非なる概念との違い(誤解しやすい比較)
| 概念 | 狙い | 競争との関係 | よくある誤解 |
|---|---|---|---|
| ブルーオーシャン戦略 | 需要を創り、市場境界を再設計する | 競争要因を再定義して“無意味化”を狙う | 「競合ゼロのニッチを探す」だけ |
| 差別化戦略(一般) | 既存軸で優位を取る | 競合比較が中心になりやすい | “機能追加=差別化”でコスト肥大 |
| 破壊的イノベーション | 既存主流を別軸で置き換える | 低性能→主流侵食の筋書きが多い | ブルーオーシャン=必ず破壊的、ではない |
5. 現場での注意点(限界)
成功は模倣を呼び、ブルーはやがてレッド化します。新版は「更新」を前提にした運用論を強調しています。
また学術的には、事例中心で一般化が難しいこと、統計的検証の蓄積が限定的であることなどが指摘されています。だからこそ、ブルーオーシャンは“仮説生成のフレーム”として使い、段階投資で検証するのが安全です。
5. 具体例/活用案
ここでは、書籍・HBR・公式ケースで繰り返し参照される代表例を、ERRCの観点で要点だけ示します(数値や条件はソースで確認してください)。
1) Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)
従来のサーカスでコスト高・価値低下が起きていた要素(動物芸、スター芸人、複数リング等)を“排除/削減”し、大人向けの物語性、洗練された舞台・音楽、複数演目という体験価値を“増加/創造”しました。
2) Casella Wines の [yellow tail]
専門用語・複雑さ・格式といった“業界の常識”を下げ、飲みやすさ・分かりやすさ・気軽さを前面に出すことで、新しい需要を開いた事例として紹介されます。戦略キャンバス上は、プレミアムワイン同士の微差競争から距離を取り、別の評価軸に寄せています。
3) Nintendo Wii
高性能競争に巻き込まれず、直感的な操作や家族・高齢者・ライト層でも楽しめる体験を中心に設計し、非顧客を取り込んだ例として言及されます。要点は「既存ヘビーユーザーを奪う」のではなく、「遊ばない人が遊べる理由」を作った点です。
4) 実務での“応用パターン”(再現しやすい型)
有名事例を模倣するより、構造を転用するほうが再現性があります。たとえばB2Bでは次のように置くと、戦略キャンバス→ERRC→非顧客の順に議論が前に進みます。
排除:過剰カスタマイズ前提、複雑な料金表
削減:導入要件・設定工数・運用負荷
増加:オンボーディング、成果可視化(ダッシュボード)
創造:業務プロセス組み込み、データ連携テンプレ
誤用の例(注意喚起)
「競合が少ない=ブルー」と決めつける:競合がいないのは“需要がない”可能性もあります。
“新機能を盛る”だけ:排除・削減が伴わない提案は、コスト増でレッドに沈みやすいです。
6. すぐ使える問い(Killer Question)
業界が競う要素のうち「顧客が本当は価値を感じていない」ものは何ですか?排除・削減できれば、コストと複雑さを同時に落とせます。
非顧客が買わない最大理由は何ですか(高い/怖い/面倒など)?拒否理由を一つ潰すだけで、需要の母数が一気に変わります。
Raise/Createで増やす価値は、Eliminate/Reduceで抜くコストと対になっていますか?対にならないなら、価値革新ではなくコスト増の恐れがあります。


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